今にも届きそうな空に手を伸ばして、決して何もつかめないことに気づいている。 ニアはまぶしげに空に手をかざした。ユメもならって思い切り両手を空にかかげた。 「東京の秋はいいね。空が高いね。届きそうにないくらい」 車を出たその先で背伸びするユメは低いヒールのパンプスを履いている。シックなワンピースを合わせて、ほんの少しいつもよりおしゃれした格好。 国立西洋美術館の前は、平日なので人手はさほど多くない。 落葉が音を立てて風に舞い散る昼下がり。 「さっさと見てさっさと帰りましょう」 的外れなニアの言葉にその感性を疑いながら、ユメはニアに手を差しのべた。 ニアは受け取って、ユメの手を引いた。 ふたりは互いに互いの手をつかんでいる。 空に向かって伸ばしても何もつかめなかったその手で。 かわいらしい小さな赤い木の葉が、くるくると回りながら街路の上へと落ちてくる。 一瞬、ふたりのつながれた手にそっとふれて、空のかなたへと舞って行った。 2016.9.12 back |