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小さい頃、「好きだよ」って言われたことがある。といっても、私が小学校の時の話だけど。その人には色々助けて貰ったりして、とてもお世話になっている。

例えば、私が同級生の男子ににイジメられたときも、助けてくれた。テストで悪い点数を取った時、お母さんにフォローを入れてくれた。結局はガキの頃の想い出に過ぎないかもしれないけど。







今時家庭教師なんて遅れてる。友だちはみんな塾とか行って、高度なこと習って。だからみんなに言われるの。今時、家庭教師なんて遅れてる。

だけど、よく考えてみれば、私にとって家庭教師は一番性に合う。というのも、その家教師の先生は近所の大学生で、小さい頃よく一緒に遊んだこともある仲だ。だからそこまで気を張って勉強することもないし、とても気軽に出来る。

それ以前に、私の家庭教師をしてくれているレッドさんは、教え方が上手い。この間の中間テストも国語で91点取れて、まぁびっくり。レッドさんも、褒めてくれたし。でもその代わり、理科と英語が残念な結果に終わってしまったので、今それの復習をしているところだ。しかし、突然レッドさんが言い出したのは、


「よし、参考書を買いに行こう」
「え、どうして?」
「僕にだって分からないものぐらいあるんだ。それに、息抜きしたいし」
「ものすごく個人的な意見なんですね」
「名前だって息抜きは大事。それに本屋さんだよ?君好きじゃん」
「そりゃまぁ」
「じゃあ行こうよ。ほら直ぐ近くにあっただろ?」
「分かりました…」


だが生憎外は雨で、傘を差さなければならない状況。まぁ梅雨だから仕方ないのだけど。
重い気分を持っていったって、何にもならないけど。

着いたのは、丁度良く家の近くに出来た本屋さん。品揃えもいい方だし、私は個人的に気に入っている。それで、今から参考書探しだ。色々めんどくさいけど。

濡れた傘を畳み、店の奥へと入っていく。丁度入口からは行って真っ直ぐ行った一番奥のところに参考書関係の本があったはずだ。たどり着いたところで手当たり次第物色し始める。すると、その時向こうからやってきたとある男性と肩がぶつかり、バランスを崩し、そのまま床へズッコーン。

そこまでならまだいいんだ。なのに、私は手にしていた参考書ごと床に落としてしまい、手にかけて置いた水浸しの傘が参考書に襲い…最悪の事態だ。


「君、何やっているんだ!売り物を水浸しにして!」
「す、すみませんっ」


やっぱり。そうだよなぁ。もう一つ運の悪いことに、私の後ろで店長と思われるおじさんが本を整理していたんだ。そらばっちり見られるよな……。


「んーコレだと弁償になるなぁ」
「ホント、すみません…」


そう言って、ポケットから財布を出そうとすると……あれ。ない?いくら探ってみても、財布と思われるものは入っていない。そういえば…と思い出したのは部屋に置いてあるスクールバッグ。確か、今日あそこに入れっぱなし何だった……!どうしよう、コレじゃあ帰してもらえないかも!!


「名前、どうしたの?」
「れ、レッドさん!」


バッドタイミングでレッドさんが現れてしまった。いけない。コレじゃあ絶対バレて、説教しこたま食らう!!


「あんたこの子の保護者?」
「まぁそんなものです」
「いえ違いますよ!」
「この子が本を濡らしちゃってねぇ。弁償モンなんだけど」
「分かりました。僕が払いますよ」


ああ、コレ絶対怒られる。


「じゃあ、すみませんでした」
「今度から気を付けてくださいよ」
「だって名前」
「はい…」


帰り道はこの上なく沈黙が流れていた。とても話せる状況なんかじゃないし、コレじゃあ謝れもしない。でも私が悪いんだから、謝らなきゃ。そしてお礼。ありがとうございました、って言わなきゃ。

「あの、レッドさん。その、すみませんでした」「いいよ、別に」「家に帰ったら、お金返しますね」「いいよ。大丈夫」「どうして?!」「気にしてないから」「わ、私が気にします!!」「そんなこといちいち気にする子だったっけ?」「しますよ!……あの、レッドさん。昔から聞きたかったんですけど……どうして、そんなに助けてくれるんですか?」

次々と出した言葉を彼はどんどんスルーしていく。だから、最後に1つだけ聞いておきたかった。

幼い頃からお世話になってきてばかりなの。もうそろそろ理由を知るか、それを止めて貰わないと、私は罪悪感で死んでしまう。そのくらい、私の中では戸惑いを感じてしまっていた。
ねぇどうして?あなたはどうしてそんなに優しいの?


「何で、か…。名前が好きだから。じゃダメかな?」
「え…」
「この意味、分かるよね?」


優しさを含んだその笑みに、頷くことしかできなかった。もしかして、小さい頃の「好きだよ」ってそういうこと?私が知らなかっただけで、あれは本気だったの……?


「冗談なんかじゃ言わないからね」
「………」
「名前、顔真っ赤」
「…う、な、何でも在りません…」
「そうだね」


何がそうだねって相槌打ってるんだか。大丈夫なわけ、ない。


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