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「クリスと喧嘩しちゃった」


そう一言俺に告げ、家に入り込んできた名前の目は赤く、そして濡れていた。多分すっげぇ泣いたんだと思う。顔見れば、分かる。
クリスと名前はものすごく仲良いから、喧嘩なんてしないと思っていたのに。でも「悪いのは私だから」と言う名前は寂しそうだった。
だからといって、どうして俺のところに来る。来てもらっても何もすることなんてないし、はっきり言って迷惑だ。
だけど心何処かで来てくれたのが俺の家でよかったと考えていたりして、自分が訳わかんねぇや。


「だからさ、こういう時ってどうすりゃいいんだよシルバー」
「それを俺に聞くのか」
「あ?だって相談出来る奴なんてお前くらいしかいねぇもん」
「余程暇人か、それとも友だちが少ないんだな」
「うるせぇなぁ!」
「お前の声の方がうるさい」


何だよ冷てぇな、と心で思ってみればいいタイミングでため息をつかれた。何だこいつ、エスパーかよ。


「名前の好きなようにやらせればいいだろう」
「ふーん」
「何だそのやる気のない返事は」
「いやぁシルバーの方が絶対やる気ねぇだろ」
「分かってるなら俺にもう電話をかけてくるな」
「へいへい」


どうして俺の周りって、こう相談に快く乗ってくれる奴がいないんだろう。
あぁそうか。いつも俺って相談、名前かクリスに乗ってもらってるんじゃん。その2人がケンカしちまったんなら、仕方ねぇ話だけど。


「名前、どうするんだよ」
「…、ねぇどうしたらいい?クリスに会わす顔がないの」
「っていうかお前ら、ケンカって何したんだよ」


原因は私、とさっきこいつは言った。
ならその原因とやらを話してもらおうじゃないか。ここに逃げ込んできたんだから、それを聞く権利ぐらいあるはずだから。
名前は少しだけ俯き、話し出す。その内容と言えば、呆れる以外言葉が出ない。俺が呆れるなんて、すげぇ。いつも名前に呆れられてばかりなのに。

原因はとはどうやら、クリスの研究の邪魔をした。それだけ。
確かにクリスは仕事とプライベートにちゃんとケジメを付ける奴はだとは思うけど、余りにもアホすぎる。名前も名前だけど、クリスもクリスだ。それが、率直な感想だった。


「そんなもん、どうすりゃいい?じゃなくて、謝りに行くしかねぇだろ」
「でも…」
「あーお前ってホンット面倒くせぇな!俺が一緒に行ってやる。それでいいか?」
「本当?!」
「そうと決まれば今すぐにでもいこうぜ」





だが外は生憎の雨。こんな天気だったら、気分が滅入るだろうが。ったく天気に文句言っても仕方ないことなのに。
だけど名前は何も躊躇うことなく、雨の中を歩いていった。そんなんじゃ濡れて、風邪引くぞと傘を持ってこようとすると、制止の声がかかった。今、濡れたい気分だとか、そんなの意味わかんねー。


「お前、マジ風邪引くぞ」
「ねぇゴールド、やっぱり不安になって来ちゃった」
「知らねぇよ!」
「ねぇ手、繋いでもいい?」
「は、そんなの――」


嫌だ、と言おうとしたのに、名前は強引に俺と手を繋いだ。どうしたんだよ全く。こんな真昼間から手ぇなんて繋いだら、恥ずかしいだろ。
だけど名前は一言、「ごめんね。今、このままでいたいの」と言った。
悪いけど、俺そんなこと言われたら何も言えなくなるんだけど。
とりあえず、黙って歩いた。手を繋いで伝わってくるその名前の体温を感じて、俺ももう少しこのままでいいかも、なんて思ったことは絶対言わない。


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