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3時になったら俺ン家来いよ。絶対だからな。
昨日の夜、そんなことを電話で言われた。正直ユウキ君が私を家に呼んでくれること何て滅多にない。だから、余計に不安を感じてしまった。

どうして?何かやるの?
不安を消すためだよ。あと気になるし。だけど私の質問にユウキ君は「知らなくていいよ」なんて残して、電話を切ってしまった。ユウキ君が私に大切なことを教えてくれることは、家に呼ぶことよりもないこと。だから、質問しただけ無駄だってことは何となく分かっていたつもりだった。
潔く、諦めるよ。

そして約束の3時。ユウキ君の家の近くに来た時、今までにはなかった何かを感じた。その正体に気付くのにはさほど時間もかかることはない。ユウキ君の家から、甘い匂いが漂ってきたのだ。
もしかして私が来るから、ユウキ君のお母さんがお菓子を焼いてくれてるとか?ユウキ君のお母さん、優しいもんなぁ。自分の出した答えに納得して、中へとはいる。


「ユウキ君ー名前です。来たよ」
「…え、」


少し経って、ドアの向こうからよく聞き慣れたユウキ君の声。今『え、』って言ったよね。何それ。ユウキ君が来いっていうから、来たのに。


「ユウキ君?入るよ?」
「あー帰っていいよ」
「はぁ?!それ、酷くない?ユウキ君が来いって言うから、来たのに」
「でもこっちは準備がまだっていうか…」
「何の?」


扉越しの会話に沈黙が生まれ、直ぐにドアが開いた。やっと会えた彼は、ちょっとだけやりきれないような、不機嫌な顔してる。もしかして、私が機嫌損ねちゃった?でも、間違ったこと言ってないんだけど。


「入れよ」
「今帰れよって言ったじゃん。ユウキ君一体何してるの?」
「…お前、今日誕生日だろ。クッキー焼こうと思ったんだけど、なかなか出来なくて…」「え、」


今度は私が、『え、』と言う番だった。確かに今日私の誕生日だ。だけど、ユウキ君が祝ってくれるなんて思ってなかったから…その意外な言葉に、少しだけ心臓が跳ねた。すごく嬉しい。


「帰れって言って悪かったよ。でも出来るまで待って」
「…私、いい」
「は?」
「誕生日にユウキ君がクッキー焼いてくれるのは嬉しいけど、それよりユウキ君が側にいてくれた方が嬉しいの」
「…」


普段なら恥ずかしく言えないけど、今日は何でかすらすらと口から流れたその言葉。言い終わって、ユウキ君の顔を伺う。まるでそれじゃ、ユウキ君の焼いたクッキー要らないなんて言ってるみたいじゃない!そんなことが言いたかった訳じゃない。どうしよう。撤回しないと!じゃないと――。


「分かった。もういいよ」


その棘のある冷たい言葉に、私は頭の中が真っ白になった。どうしよう。折角くれるって言ってたのに、バカじゃん私。最低だ。


「クッキー作る気失せたから、今からどっか行こうぜ」
「は?!え、もしかして怒ってる…?」
「別に。お前甘い物好きだからクッキー作ろうとしただけ。別に要らないっていうなら、作る理由もねぇし」
「あ、決して要らないという訳じゃ…!」
「いいよ。その代わりさ」


今日はずっと、一緒にいようぜ。
クッキーの甘さより、もっと甘いその言葉に、溶けそうなのは私です。誕生日には勿体ない贈り物を、存在を今感じた。
やっぱりあなたといるのが、何よりも大切。


贈るより大切なもの
(あなたといたいって、思うの)



いおさんハッピーバースディ!


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