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「あ、宿題学校に忘れた」


そのことに気付いたのは夜の9時だった。どうして今まで気付かなかったんだろう。さっきまでずっと漫画一気読みしてたのが原因かな。うん、きっとそれが原因だ。っていうかそんなことを追究してる暇じゃなくて、どうしよう!

忘れたのは数学の宿題。問題集ごと忘れた。本当は3日前に出された宿題だったけど提出期限までまだあるからーなんて余裕な気持ちでいたら大変なことになった。1問も手を付けてないし、手元にない。
おまけに数学の教師であるミクリ先生は怒ると怖いからなぁ。普段は優しそうなのに。
でも仕方ない。取りに戻る他選択肢は多分ないだろう。


「おかあさーん私学校行ってくるねー!」
「は?この時間に何しに行くって言うの?」
「宿題取りにー!」
「………」


返答がなかったってことは、勝手に行けってことか、バカじゃないのって呆れてるのどちらかだ。まぁ別にどっちでもいいんだけど。
でも学校が家から近くて良かった。歩いて多分…15分ぐらいのところに位置している。私の友だちは電車で1時間だから、それに比べたらとっても楽。
だけど時刻は9時と遅い。多分よい子はそろそろ寝てる時間じゃないかな。辺りは暗く、私が道路を走る音だけが響いている。
そんなとき――私の後ろ方、またもう1つの足音が聞こえてきた。走ってる音だ。でもこんな時間に走ってるなんて、物好きな人だなぁ。

好奇心と興味本位から後ろを振り向いてみる。
するとそこには後輩のユウキ君が同じように走っていた。


「ユウキ君?!どうしたのこんな時間に」
「あ、先輩。先輩こそ何で走ってるんですか」
「あー学校に忘れ物しちゃって」
「へぇそうなんですか。俺もです。今から取りに行こうとしてるんですよ」
「ねぇじゃあさ、一緒に取りに行かない?」
「別にいいですけど」


よっし。一人寂しく学校の校門を潜ることがなくて良かった。何気に心細かったんだよなぁ。それにうちの学校、色々変な噂あるし。夜に出る、とか。

二人で話しながら歩いているうちに、いつの間にか学校に辿り着いていた。暗がりの中で私たちの目の前に立つ校門を易々と超え、校内へと入る。とりあえず最初は後輩を優先して、ユウキ君の教室へ行く。彼が忘れたのは携帯だった。何でそんなもの忘れるの。


「じゃあ次先輩の教室行きますか」
「うんごめんね付き合わせて」
「まぁ俺も付き合ってもらってみたいだし、別にいいです」


うんごめんね、ユウキ君が付き合ってくれたんじゃなくて、私が無理矢理付き合わせてるんだと思う。言いたかったけど、止めておいた。あれこれ重ねて言うのもどうかと思ったから。
私の教室は1つ上の階にある。階段を上がり、さっさと自分の教室には入って数学の問題集を抜き取った。さぁ帰ろう。そう思ったら――。


「あれ、ユウキ君」


さっきまでいたはずのユウキ君がいなくなっていた。あれ、どういうこと。さっきまでいたじゃん。何で急にいなくなっちゃうの?もしかして……変な考えが頭の中を過ぎっていく。そういえば出るんだったよねこの学校。いやでも噂だし。でも見たって人いるって聞いたし。でも聞いただけだから、本当か分からないし。
かた、と窓のガラスが鳴った気がした。うわぁもうやだ。気味悪い。


「ちょ、ホントにユウキ君何処に行ったの?ユウキ君ー!」
「何大声出してるんですか先輩」
「うおぉっ!背後から出てこないで!っていうか、今まで何処にいたの?!」
「水飲んでました」


階段の隅に位置するフォータークーラーで水飲んでました、なんてさらりと言われて、少しでも狼狽えた自分がバカらしく思えた。でもまぁそれならそれで、ちょっと水飲んできますの一言ぐらい欲しかった。


「…じゃあ帰ろうか。色々疲れたし」
「そういえばこの学校出るらしいですね。先輩ってオバケとか苦手でしたっけ?」
「ユウキ君、もしかしてそれ全部知ってて勝手に水飲んできたの?!」
「………」
「黙るな話せ!本音は何っ……なの」


今のは何なんだ。唇に当たった柔らかい感触。目の前でユウキ君が余裕のある笑みを浮かべている。まさかこいつ、そう思ったけど口には出さなかった。だって恥ずかしかったから。今どうしようもなく頬が熱い。


「じゃあ先輩、帰りましょうか」
「…うん、」


校内不法侵入の夜
(そして確かな熱を覚えた)



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