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名字、今から暇?そんな言葉と共に、一乃は教室に入ってきた。もう部活終わったのかと聞けば、うんと答えてくれる。もしかして暇かと聞くのは、今から何処か行くのに誘ってくれているから?コイビトなのに最近あまり話してない一乃に、勝手な期待が募っていく。抑えろ私、まだそうと決まってない。


「暇だけど。どうしたの?」
「今から一緒に、河川敷走りに行かない?」
「…は?」


どうしてこうなったのか分からない。





どうしてこうなったのか分からない。ただ走っていた。しかも制服で。しかも肩からはお互いに重い荷物を持って。どうしてこうなったのか分からない。ただ、ただ分からない。
少し先を走っている一乃には、何だか聞く気分になれなかった。少し期待した自分に泣きたくなった。確かに暇だったけど、どうして今私たちはランニングしてるんだろう。


「…名字?さっきから黙って、どうしたの?」
「別に。黙って走ってるだけだけど」
「機嫌、悪くないか?」
「きっと一乃の気のせいだと思う」
「…もしかして、何か期待でもしてたの?」


それを言い当てられて、心臓がどきりと跳ねた。恥ずかしくて頬がどんどん熱くなってくる。どうして。一乃には分かっちゃってるの。いや平静を装うんだ私。まだ本当にばれた訳じゃないんだから。
だけど一乃はそれ以上追究してこなかった。何だか一乃の後ろ姿ばっかり見ていたら、顔が見たくなってきた。こんなこと、本人の前じゃ絶対に言わないけど。


「ねぇ一乃、何で急に走ろうって言い出したの?」
「…うわっ名字。さっきまで後ろにいたのに。もう来たの?」
「陸上部舐めないで」
「…まぁ色々あって。走っていれば何かなるかなぁって」


きっと何かあるんだろうね。最近一乃って辞めたサッカー部にまた入った。少し休んでいた分、それを取り返すのに必死なのかもしれない。きっとこのランニングだって、その焦りから出たのかな。
しばらくお互いに黙って、河川敷を走っていく。夕陽だけが、私たちを見ていた。あぁ何だか少しだけ、寂しくなってきた。
一乃だって頑張ってるんだよね。私も何か協力したい。だけど、サッカーに大した知識もないから、役に立てない。とっても、歯がゆい。


「名字、ありがとう」
「え、いきなり、どうしたの?!」
「何か言いたくなって。付き合ってくれてありがとう、って言いたかったんだ」
「いいよ別に。走るの嫌いじゃないし」
「俺も名字と走るの、嫌いじゃない。むしろ好きだよ」


きっとそれは走るのに対しての「好き」だってこと、十分に分かっていたはずなのに。頭の中で言葉の中から切り取られた「好き」という言葉だけが駆けめぐっていく。陸上部だから走るのは嫌いじゃない。むしろ好き。
だけど、一乃と同じ道を走っていることに嬉しさを感じたい。
誘ってくれてありがとう。小さく小さく、そう呟いた。



title by cshritt


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