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夏の面影なんて、そこにはすでに存在していなかった。熱くて嫌だった日差しも弱まり、今じゃ風がますます強くなっていくだけ。最近やっと冬服に変えて、友だちから「やっぱり名前ちゃんは夏服が似合うね」なんてお褒めの言葉をもらったばかり。正直自分でも夏のほうが好きだった。制服は、冬の方が好きだけど。
隣を歩いているトウヤ君は、もうずいぶん前から冬服に変えていた。暑くないか、と聞けば丁度いいと応えてくれる。もしかしたらトウヤ君って、実は寒がりなのかもしれない。きっとそこを突けば、交わされるんだろうけど。

「ねぇ。トウヤ君」
「何」
「…寒いね」
「別に寒くないよ」
「嘘だ。じゃあ何でポケットに手を入れてるの?」
「かっこいいじゃん」

トウヤ君のかっこいいの基準を、私はきっと理解できない。だってポケットに手を突っ込んで、転んだりでもしたら笑えないよ。別にトウヤ君がそれをするとは決まってない。トウヤ君はきっと器用だから。

「でも今日すごく冷え込むらしいね」
「さぁ知らね」
「天気予報で言ってたよー。雪降るかもって」
「はは、今まだ11月だぞ。降るわけないって」
「…でもトウヤ君、そら見てみて」

私の呼びかけに、トウヤ君はゆっくりと空を見上げた。少し曇った灰色の空からは白い粒がちらほらと舞い降りてきている。どうやら私が言ったことは本当に起きたようだ。少しだけ心が躍る。うれしい。なぜかは分からないけど。
トウヤ君は隣で小さく呟いていた。さみぃ、と。だけどきっと、この雪が降りやめばいいとは思ってないよ。できれば積もって、また明日きれいな白い世界を見せてほしい。きっとできっこないってことは知ってたけど。

「雪、降ったね。きれいじゃない?」
「んー早いな」
「積もると思う?」
「絶対積もらない。こんな程度じゃ積もらないよ」
「残念だね」
「うん」

何だかんだ寒いとか何とか文句を言ってる君でも、やっぱり残念がってくれるんだね。それだけですごく嬉しかった。トウヤ君と考えていることが、想いが重なって、嬉しかった。
溶けてしまういそうな雪が、少しだけ愛しく感じたよ。



えつこさんへ


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