txt | ナノ

「久しぶりに、何処か遊びに行こうよー」
「無理だな」


私の願いは、その一言で一刀両断された。無理だな、なんて。じゃあ一週間放置されている彼女に何もしてくれないと言うのか。せめて、帰りくらい一緒に行きたいのに、それさえも拒まれて…じゃあ、私に何しろって言うんだ。
だけど相変わらず鬼道くんは静かに答えた「ダメだ」と。そんな何回も言わなくても、私理解できるのに。我が侭な子供を煽てるように言うのは止めて。じゃないよ本気で騒ぎ出してしまいそう。


「それは脅しか?」
「そ、それどういう意味」
「お前にうるさくされると、こっちに余計負担がかかるんだよ」
「そりゃまぁそうでしょうね」
「一緒にいるのが恥ずかしくて仕方ない」
「………」


そりゃ恥ずかしいだろうよ。一緒にいる連れがいきなり騒ぎ出したりでもしたら、絶対注目浴びるもん。鬼道くんはそういうの、嫌いな人ですか。いや。誰だって嫌だよね。私だって嫌だよ。横で鬼道くんに騒がれたら、他人の振りをすると思う。…まぁそれ以前に鬼道くんが騒ぐことなんて、ないんだけどね。


「分かったらさっさと帰るぞ」
「ねぇ私の話聞いてました?」
「…はぁ」
「ちょ、今のため息なに」


鬼道くんは振り返った。静かな目で、私を見つめる。何も言えず、答えず、沈黙だけその場を覆って、一体彼は何がしたいんだろう。
不意にそっと差し出された手。何これ。握ってもいいんですか?
恐る恐る触ったその感触に、心がすっと軽くなった。あぁ何かもうどうでもいいや。何処に行こうが、誰と帰ろうが、結局私は鬼道くんと一緒にいたかっただけ。その想いはもう叶ってる。これ以上望むことなんて、なかったんだ。
だけど小さく、本当に小さく呟かれたその言葉を、私はちゃんと聞いていた。
「また落ち着いたら何処か行こう」って。
嬉しくて嬉しくて、繋いでいた彼の手を握り返す。きっと今の私たちなら何処にでも行けるような気がするよ。



title by No Name


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -