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それは夏になりかけのある一日のこと。一度でいいからやってみたいと思うことがあった。
4限の体育の後、暑さが身体を支配し、みんながみんな、教室へ一刻も早く教室へと向かっている中一人わたしだけ校庭にいた。今からみんなで楽しく昼休み――にも関わらず、未だに足は校舎の中へとは向かわない。ほんとうに、一度でいいからやってみたいと思うことがあった。たとえばそれは、夏の大会とかに出場した選手たちがすることで、暑い日に部活の後男子たちがやっているようなことだ。何となく、ただ何となく恥ずかしくてできなかったけど、わたしは諦めない。いざ水道に手をかけ、水を出したとき――「あ、名字。お前まだいたのか」――クラスメイトの倉間君の声が聞こえた。

「お前まだ校庭にいたのか」
「う、うん。倉間君こそ、どうしたの?忘れ物?」
「いや、何か水飲みたくて」

ならば早く教室へ行ってお茶を飲めばいいのに。言いたかったけど言えなかった。そこまで深入りし、倉間君の行動にあれこれ言える人間じゃないと思ったから。いやいや、それよりも。彼に聞きたいことができた。

「ねぇ倉間君って、サッカー部だったよね」
「そうだけど」
「夏はやっぱり暑いから、頭から水を被ったりするの?」
「、まぁ、ときどき」
「気持ちいいよね、それって!」

若干引いているような目をしているけど気にしないでおこう。わたしはその、頭から水を被るということがしたかった。さぞ気持ちいいんだろう、さぞ爽快だろうと想像するだけでは満足できなかった。それを倉間君に言って、何をしたいかは分からないけど。

「ということでわたし、ちょっと頭から水被ってみる」
「ちょ、ちょっと待てよ名字!それやると下着透けるだろ!」
「えっ……まぁ気にしないよ、大丈夫」
「俺が気にするって!」

あぁそうか、全然意識していなかったけど倉間君も一丁前の男の子ということか。でもわたしの透けた下着なんて大したものでもないから本当気にすることなんてない。「わたしの下着なんてガキっぽいから、見ても平気だよ」半分冗談のつもりで言ったら叩かれた。痛い、何でだ倉間君。「バカかお前、バカだろ」2回も同じこと言わなくったっていいじゃない。

要するに、やるなと念押しで言われた。まぁ、仕方ない。男の子に見つかってしまった時点でわたしの負けは決まっていたんだ。今回は諦めるとしよう。遊び半分で言ってみる。「じゃあ倉間君が頭から水被って、水も滴るいい男ってやつを見せてよ」瞬時に水が飛んできた。倉間君が指を巧みに使って、飛ばしてきたんだ。「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ」なんだよけち、お返しだ!同じことをわたしもやり返し、それで昼放課が終わってしまった後教師に2人仲良く怒られたのは言うまでもない。
だけど楽しかったね。やっぱり返ってきたのは「ばーか」という言葉だった。



/ふさみさん
とりあえず倉間君


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