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協力を強いられ、それが仮にも片恋の相手で、わたしが力になれるというなら協力するに決まっている。恥ずかしいからとか無理だからとか、そんな小さな感情を理由に断るほどわたしは冷たくなんかない。ただ、ただ場合にもよるだろう。たとえば読み合わせをしてくれと頼まれ、わたしが問題を出すたびに予想を越えた答えが返ってくるというのは、開いた口がしばらくの間閉まらないのと同じだ。

「え、えっと倉間くん。一通り藤原氏は覚えたの?」
「あんま」
「……全然覚えてないよね。今読み合わせした限りでは」
「………」
「まず問題集やろうよ」

まるで問題集など今までに一度もやってないと言わんばかりの表情が返ってきた。今回は暗記物が多いから、絶対問題集は為になると思ったのに……呆れた、訳じゃない、けど。だけど、なら今まで彼は一体どんな風にして社会科のテスト対策をしてきたのだろうか。わたしがそれを聞く前に、倉間くんが口を開く。

「名字ってさ、どうやって社会勉強してんだよ」
「社会なんて習ったこと授業中に覚えられるよ」
「は、はぁ?!マジかよ」

この様子だと、倉間くんの勉強方法は違うみたいだ。気になったから聞いてみたけど、「一夜漬け」と一番聞きたくない答えがやって来た。何だか少し、悲しいや。

「じゃあ問題集終わったら、もう一度読み合わせしようか」

まるで彼の母親か姉にでもなった気分だ。だけど倉間くんに対してこんな優越感に浸れるのはきっと社会だけだろう。わたしはまず、自分の壊滅的な英語の点数からあげていかなくちゃならない。同じような分厚い問題集を広げ、ノートの上にシャーペンを走らせていく。単語を書くのは好きなのに、それを覚えろなんて言うんだから苦となるわけで、毎回複雑な気分に見舞われるのは仕方ない話なんだ。

「あ、そういえばさ」
「何?倉間くん」
「何で今回、そんな真剣に勉強してんだよ」

まさか母親に叱られたのか、なんて冗談混じりだろう笑い声が聞こえてくる。確か同じようなことを水鳥さんにも言われてしまったような気がする。いつかこんな風に具体的な質問をされるだろうとは思っていた。だからこそ、そのときのために恥ずかしくないような答えを用意していたはずなのに、言葉が続かない。

「名字?」
「……倉間くんって水鳥さんと同じこと言うんだね」
「瀬戸も同じこと言ったのかよ」
「うん。あのね、わたしが今回頑張っているのはね、」

数秒後、沈黙と大きな笑い声という両極端な反応がわたしを襲った。


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