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小さい頃から大空を自由に羽ばたいていく鳥たちに憧れていた。大きくなったら空を飛びたいなんて、今なら笑って済ませられる夢を抱いていたのは幼い頃のわたしだ。だけど人なら一度は夢見ていると思う、空を飛びたい、と。大きな翼を広げ、あのムクホークのようにわたしも青空を飛んで風を感じてみたい。ねぇあなたもそう思うでしょう?隣でわたしの話を聞いてくれているはずのマイちゃんに目をやると、何とまぁ読書をしているではないか。もしかして最初から終わりまで、無視されていたの?ねぇ、マイちゃん。名前を呼んでも応えてくれない。好きな子こんなことされるなんて、わたしとしても少しは傷つくよ。

「ねぇマイちゃん。無視はよくないよ」
「……今、読書中」

遠回しだけど話しかけるなと言っている。一緒にいるというのに、会話もせずに彼女は本を読み、わたしは一人空へと想いをはせらせて何て悲しい時間を過ごしていることか!ねぇマイちゃん、マイちゃーん。何度声をかけても、何回揺さぶっても答えてくれなかった。いつもと同じ反応だけど、それで毎回心が折れない訳じゃない。少しだけ寂しくて、悲しい気持ちだ。ねぇ、ねぇ。

「……空を飛ぶなんて、子供の考えることよ」

今日一緒にいて、初めて彼女が口を開いた。だけどそれはわたしの昔夢見たことを否定する言葉で、別にそれにショックを受けたわけでもないけど、気分は沈んだ。喋ったかと思えばそれか。

「マイちゃん、わたしもあなたもまだ子供だよ」
「……名前だけ」
「はは、そうかもね。もしかしたらわたしがマイちゃんに好きと言ってそれを返してもらうのは、わたしが鳥になりたいって思うくらい、難しいことかも」

自分で吐いたのは悲しい言葉だった。前々から好き好きと言っていたのは冗談じゃない。女の子を女の子が好きになるなんて、自然の摂理から逸れてしまった感情も、消えないと知ってしまったんだからもう止めることはできない。友だちだった彼女に初めて好きと伝えたとき、確かに表情はわたしを軽蔑していた。でもね、でもね。好きになってしまったんだ。マイちゃんは普通の女の子だから、普通に男の子と恋愛したいと思うだろうけど、わたしはマイちゃんと恋がしたいな。2回目に想いを伝えたときは殴られた。痛かった。細い身体にはあんなにも力がこもっていたのかと思えると笑いが止まらない。そうやって何度も何度も、好きとその一言を繰り返し言い続けてきたけれど答えは変わらない。諦めようとは思わないけど、そろそろ疲れてしまった。もし、わたしが鳥になれないのと同じように、彼女もわたしのことを好きと言ってくれないなら、世界はなんて残酷なんだろう!
わたしが悪かったのか、女の子を好きになったから。でも、じゃあどうすればよかったのか。相変わらずマイちゃんは目線を合わせてくれない。あの日からずっと、目と目をちゃんと会わせて会話したことなんてない。

「……鳥にはなれないけど、諦めないで」
「え?」
「わたしを、変えてくれるんでしょ?」

嗚呼、反則だ。ささやかな微笑みに、自己嫌悪の渦も何処かへ消えてしまいそうだ。そう、わたしは鳥になれないから空は飛べない。でも、彼女を好きでいることまで諦められない。疲れても、また好きでいたいと思える。これほどまでに思うなんて、わたしはきみに下手惚れだね、冗談で笑って言うと、「バカ」と言って殴られてしまった。だけど本当は、そういうところが好きなんだ。



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