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バカ、知らない。最低、アホ。もういい、カイなんて死んじゃえ。
よくもあんな言葉を数秒間の間に噛まずに言えたものだと感心してしまう。よくもあんな、心にもない言葉を……駆けめぐるのは後悔だけだった。だけど違う、まだ心の何処かで違うと叫んでいるわたしがいる。わたしは悪くない、悪いのはカイだ、って。思えば思うほど、それを肯定しようとまた心の中でモヤモヤとした感情が浮かび上がるだけ。本当は笑って「ありがとう」の一言が欲しかっただけなのに。何で、こうなったんだろうか。ただ意地っ張りなわたしの性格?それとも、受け流したカイの態度?嗚呼、本当泣いてしまいたい。

久しぶりにお菓子を作った。理由は誘われたことと気分だったからという単純且つ明確なもの。暇潰しにでもなるだろうと立ち上がり、早速久しぶりにクッキーを作った。お菓子作りなんて正直クッキーぐらいしか作れないわたしにとって、唯一の自信作。少し前のバレンタインにも作って、それをカイに渡した。そのことを思い出せば、またこれを上げようかなと甘い気持ちに包まれていく。そのとき、耳元で囁く声が聞こえた。「またカイにあげるの?」って。嗚呼恥ずかしい。バレバレだったみたいだ。いつものわたしなら「違うわよ!」と怒鳴るところだけど、かわいい女の子でいたかったから頷いた。やっぱり恥ずかしくて耳まで真っ赤ね、と笑われて穴に入りたくなったのはいつもの話だ。





バカ、知らない。最低、アホ。もういい、カイなんて死んじゃえ。
何であんなこと言われたんだろうと考えると、また頭が痛くなってきた。難しいことを考えるのはあまり得意じゃない。ただ今は、半泣きで罵声を吐き、逃げてしまった名前を探さなくては。きっと名前を呼んでも出てきてはくれないんだから、大変だと自分のしていることに思わずため息がこぼれる。変なことなんてひとつも、なかったはずだ。「カイ、これ上げる」と恥ずかしそうに差し出されたのは名前の得意のクッキーだった。いきなり差し出されたんだから、分からなかったんだよ。「何、どうしたの」「別にどうもしてないよ」「バレンタインはもう過ぎたけど」「だから、何よ」「何でくれるの?」あの問いかけの後、名前はさっきから言っている状態へとなってしまった。問いかけが行けなかったとか言われても、当然の質問をしたまでだから責められる気はない。

「名前、何処だよ」

不意に声が出た。名前を呼んだって、名前が出てくるはずないって分かっているのに。それでもきっと出てきてくれることを願っていた。森の中至るところを探したけど、まだ見つからないと思うともしかして何かあったのかと心配し始めてしまう。本当はきっとそんなこと、ないだけど。
すると、いきなり背後に重みを感じた。突然のことでよく頭が働かなかったけど、きっと名前だ。だって名前だから、何となく分かる。

「名前?」
「……カイ、あのさ」
「うん」
「ごめんね」

本当はその言葉、俺が言うべきだったんだ。振り返ってみると名前は涙目でちょっとだけかわいらしかった。嗚呼、うん、何て言葉を繋げよう。とりあえず、ここはどうして怒ったのかとか聞くべきなのか。でもそうしたらまた怒ったり泣き出したり……名前はどう転がっても子供なんだ。今更のことをもう一度飲み込み、その少し震える身体を抱きしめた。

「俺も、ごめん」
「うん」
「何で怒ったの?」
「……だってカイが、どうしてって聞いたから」

やっぱり理由を求めたことに、名前は悲しくて怒ったんだ。すると申し訳ない気持ちが込み上げてきて、これは何処にぶつければいいんだろうか。「バレンタインとか特別な日じゃないと、カイにお菓子を上げちゃいけないの?」とんだ勘違いだ。名前にその悲しい思考を持たせてしまったのは、全部俺が悪いと思う。

「違う、違うよ名前。そんなんじゃないよ。嬉しいよ。だからあのときのクッキーちょうだいよ」
「もう食べちゃったわよ!」
「……じゃあ、今度また作ってよ」

きっと名前は怒ってヤケになって食べてしまったんだ。それも仕方ない話だろうと、納得しておこう。だから次は、理由もなく俺にお菓子をくれることを喜んで、今度を待つことにする。
名前の顔が晴れたから、嬉しかった。



/まゆこさん
カイくんと喧嘩して仲直り


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