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心臓が未だにどくどくと波打っている。本来なら内気であまり人前ではうまく言葉の続かないわたしが、自分でも大胆な行動したなぁと感心してしまう。言った、ついに言った。初めて会って、あれから約1か月は経ったけど、彼の横顔を忘れたことはなかった。きっと、一目惚れだったと思う。見た瞬間、この人だと思った。わたしは、この人でないといけない、そう強く深く考え込んだ。
言うべきか、言わないべきか。本当に、本当に迷った。こんな性格だし、そもそもまだ知り合って日の浅い関係。わたしが話しかけなければ目の前を通っても無視して行ってしまう学年の違う彼。あんなにきれいな横顔に、そのままスルーされてたまるものですか!必死になって声をかけてみた。少し嫌そうな、でもちゃんと答えてくれるところも彼の魅力だろう。

きっと倉間くんは部活が終わる時間までやってこないだろう。それまで、広げたスケッチブックに鉛筆を走らせていく。波打つ鼓動が、大きさを増し、何時間経ったことだろうか。部活の終わりを知らせるチャイムが校内を響き渡る。きっと、数分もしたら小柄の彼が来てくれるだろう。すると――

「あ、あの……」
「来た、倉間くん!」
「あの、言いたいことって何すか。俺、告白とか無理っす」
「……は?」

何か、勘違いでもしているのだろうか。告白?誰が?誰に?少し赤い倉間くんの顔は、気温のせいではないだろう。じゃあ、どうして?頭を過ったものに、少しだけ焦ってしまった。もしかして、わたしの言い方がいけなかった?

「倉間くん、わたしが告白すると思ってるの?」
「え、違うんですか」
「違うよ!わたしはただ、倉間くんに絵のモデルになってほしいって頼みたかったの」
「ぬ、ヌードっすか」
「……違うわよ」

思春期男子だからだろう、きっと自然とそちらの方向に頭が行ってしまうのは仕方ない話なんだ。答えがほしくて倉間くんの肩に手を置くと、跳ね除けられてしまった。少しだけ、痛かった。何も言わずに行ってしまう彼の後ろ姿は、わたしに後悔を感じさせてしまったのか何なのか。とにかく、今とてもいい気分何かじゃな。

それからやっぱり、彼には避けられてばかりだった。


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