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ほんの少しの出来心だった。初めてポケモンを手にした気持ちを今になって思い出してみるとそれは新鮮で、今ではきっと知ることのできないキラキラとしたものだった。あのときはまだ子供だったし(今でもだけど)世界のこととかもよく分からないかったし。だから見るもの全部が新しいものばかり。本当の、無邪気と言えた。今は悲しきことに旅も一段落して世界もそれなりに知って、それなりに強くなった。だから、初心に戻りたいと思ったんだ。もう、戻れないかも知れないけど、もう一度あのときのように小さな瞳で俺を見上げていたポケモンを手にしたい。
そんなどうでもいい御託を並べても、ついこの間手にしたタマゴは未だに孵らない。育て屋のおばあさんに「どうやったら早く孵るのか」なんて質問を投げかけるとため息を吐かれたのを今でも覚えている。「そんなの、早いも遅いもないよ。歩きなさい」……一番嫌な答えだった。父さんからの頼みもない今じゃ暇を持て余している俺に何も言い返せないのが歯がゆい限りだが、やはりここは歩くべきなんだ。だって初心に戻ると決めたのは自分なんだから。

様子を見てみると、まだまだ孵るのには時間がかかるみたい。いつからこんなに短気になったのか。周りを見渡してみるといつの間にかそこは111番道路で、よくここまで歩いたなぁと自分でも感心した。確か出発地点はミシロタウンだから、結構な距離のはず。近くには戦ってくれそうなトレーナーは見当たらない。仕方なく、先へ行こうと足を進めたとき――何処からか、歌が聞こえてきた。多分声からして女性。でも、何でこんなところで?募る疑問も考えず、音が聞こえた方へと方へと、歩いていった。





確かに、そこには人がいた。やっぱり女性だ。ギターかな、楽器を手に持ち、隣には気持ちよさそうにチルットが寝ている。その人も、俺に気付いたのか音と声がぴたりと止んだ。静寂に包まれる中、その人が声をかける。

「君、そこで何しているの?」

歌っているときよりも、澄んでいてきれいな声だった。



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