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「ねぇユウキくん、バトルしようよ」
「え、俺と名前で?いいけど……悪いけど、俺負ける気しないよ」
「あ、ううん。違った間違えた。わたし、ユウキくんがバトルしてるところ見たいから、今すぐバトルしようよ、って言いたかったの」
「何それ、俺だけ面倒だ」
「まぁいいじゃん、今日だけ!いいでしょ!」

我が侭だって分かっていたけど、言ってみた。だってユウキくんだってバトル好きなんだし、そんな苦にならないお願いだと思っていたから。でもやっぱり、少しだけ不服そうに睨まれ、だけど頷いてくれた。流石、やっぱりわたしの彼氏さんだね!なんて冗談で背中を叩いたら照れたように「うっぜ」と言われてしまった。だけど人間って不思議だね、本人じゃないのに、気持ちがちゃんと伝わってくるよ。ユウキくんはわたしにうっぜ、って言ったけど、もちろん本気だなんて思ってない。軽い冗談冗談。むしろ少しだけ嬉しいなんて思ってしまう、マゾじゃないよ、普通の人間。ただ何て言えばいいんだろうか。そう、伝わっているところが、いいよねぇって思っただけなんだ。ただそれだけ。





あ、あそこにいる短パンの男の子、ヒロキくんじゃない?あの子とバトルしてよ、ね!やっぱり何処からどう聞いても我が侭にしか聞こえない。だけどユウキくんは静かに「いいよ」とこぼした。ヒロキくんに近づいていき、バトルが始まるようだ。少し離れたこの場所からでもちゃんと見える、見たくて仕方なかったユウキくんのバトル。さて、ユウキくんはどの手持ちを繰り出すんだろうか。
ヒロキくんのポケモンは確か、オオスバメ・ヤルキモノ・マッスグマだったかな。ユウキくんはいつも、どんなポケモンを持ち歩いているんだろう。わたしが知っているのは、オダマキ博士からもらった最初のポケモンの、ミズゴロウだけ。それからホウエン地方を旅してきたユウキくんは、流石に何匹か捕まえたはず。初めて、かもしれない。緊張と熱意に包まれるバトルを、横から見ることができるなんて。出されたのは、ラグラージだった。嗚呼、やっぱり。予想通りだったかな。今度は、ラグラージでどんなバトルをするんだろうと疑問が浮かんでくる。自分自身のポケモンは持たず、いつも人のポケモンばかり可愛がってきたから、ユウキくんのラグラージがすごく凛々しい。

それはそれは、実力差の開いたバトルだった。ヒロキくんも頑張ったけど、ユウキくんがすごかった。やっぱり、すごいね。ホウエン地方をマグマ団・アクア団から救ってくれた張本人の実力は舐められない。満足したように「どうだ」と言ったような顔でわたしに近づいてくるユウキくんは、とっても嬉しそうだ。当たり前か。今さっきバトルに勝ったばかりなんだから。

「でさ、何で俺にバトルしろーなんて言い出したんだよ」
「え、それ聞くの」
「当たり前だろ。何でだよ」
「うーんとですね……」

まさか聞かれると考えてなかった。ユウキくんって変なところ単純だから、きっと気付かずにことが終わると、そう思っていたのに……言葉を選び、彼が不満に思わないような回答を探し出す。嗚呼、自分の思っていること素直に口にすれば簡単だというのに。わたしは変なところで複雑だ。

「えっと、わたし何でユウキくん好きになったんだろうなーって考え出して」
「うん」
「ユウキくんがバトル好きなところとか、バトルに強いところが好きなのかなって思って、ユウキくんがバトルしているところを見たいと思っただけです」
「ふーん。で、答えは見つかった?」
「いいえ。全然」

好きの気持ちに理由なんてないって言うけど、少しだけその理由が欲しかった。きっと理由があったら、納得できるんだって、そう思っていたけど案外にそれは難しくて、未だに謎は解けていないまま。このまま分からないままでもいいかもしれない、これ以上ユウキくんにわたしの我が侭を付き合ってもらうのも悪いし……嗚呼、ちょっとだけ納得がいかないだけ。もう、気にしないでおこうかな。

「そんなの、簡単じゃん」
「え、何が?」
「ただ運命だった、って考えればよくね?」
「……ユウキくん意外とロマンチックさんなんだね」
「うるさいな、折角答えてやったのに」

嘘だよ、本当はすごくすごく嬉しかった。照れくさかっただけ。だってユウキくんが答えてくれるなんて、きっと誰も考えてなかったよ。そうか。わたしとユウキくんは、運命で好き会えたのか。何かの答えに「運命だから仕方ない」なんて言えば全部解決してしまえそうで、それはそれは便利な言葉なんだろう。だけど、このときだけ運命を疎ましく思わなかった。ただ、嬉しかった。


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