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たとえば恋をしたとしよう。その子を見ると動機が激しくなったり緊張したり、慌てた行動を取ってしまったり……そんな無駄の多い動きをしてしまうのは正しく、その子に恋しているからであって、今までにそんな経験のない僕にとっては喜ばしいことでもない。むしろ戸惑いを感じ、解決策を考える毎日だった。嗚呼、自分で言うけどやってることがあほらしい。こんなことみんなに言ったら、絶対笑われるかからかわれるに決まってる。特に絶対、狩屋くんになんて言いたくないなぁ。そんなことを考えながら上げた視線の先、あの子と目が合ってしまった。いけない、失敗した!慌てて目を逸らしてしまったのも、少々不自然だったに違いない。あぁ、もう、何て情けないんだ。自分の意見とかはっきり言おうと試みているのに、前の逃げ出すばかりの自分に戻ったみたいだ。あの子絶対今、気分悪くしただろうなぁ僕のせいだよなぁ。どうやって言い訳しようかなんてくだらないことを授業中に延々と考え、先生の話はこれっぽっちも耳に入ってこなかった。先生に対してもあの子に対して、申し訳ない気持ちが募るばかりだ。

チャイムが鳴って、やっと長かった授業に終わりが見えてくる。そういえばあの子は毎回授業が終わった少しの放課、いつも教室から出て行ってしまう。毎度トイレに行っているとは……お、思いたくないから想像しないけど、だったら何をしているんだろう。他人に大きく干渉するつもりはないから聞きたい。だけど何故か身体が動いてしまった。ドアの近くに立っているあの子に駆け寄り、名前を呼んでみる。振り返ってくれてた。小さなことだけど嬉しかった。僕が話しかけると少しだけ楽しそうに、話題を振ってくれた。

「何、影山くん」
「いや、あの、その」
「そういえば影山くんと授業中に目が合ったね!」
「ああうん、そそそうだったね!」
「何を慌ててるの、大丈夫?」
「大丈夫だよ!」

いや大丈夫なんかじゃない。明らかに挙動不審過ぎて笑えない。だけどその子は変わらない笑顔で、気付いてなさそうだ。嬉しいような少しだけ残念なような。別に残念がる必要なんて何処にもないのにな。だって僕はまだこの想いを打ち明けるつもりも、気付かせるつもりもない。今はずっと、見ていたいだけだった。ようやく緊張も緩み、言葉を選んで喋る準備ができた。何て時間がかかったんだろう!自分でも驚きだ。

「別に授業中、君を睨んでいた訳じゃないんだよ」
「ふぅん、そうなの?」
「もちろん、あ、じゅ、授業受けてる姿が、かっこいいなぁって……」
「何それ、意味分かんない!かっこよくなんかないよ」

それから教室から一歩出て、その子は振り返った。じゃあ今からわたし、トイレ行くからね。……やっぱり毎時間トイレに行ってたんだろうか。いや失望とか呆れとかそんな感情一切ない。はず。ただ意外だっただけ。そうだ、そうだとも。こんなことであの子を嫌いとか苦手とか思ったりなんてしない。僕は意外と頑固なんだから。

「影山くんが睨んでたなんて思ってないから大丈夫だよ」

別にそのことを聞き返したかった訳じゃないのに、それを残すとあの子は行ってしまった。嗚呼、今日ちょっとだけ喋ることができた。もっと前の僕から考えたら進歩した方だ。よくやった、よくやった。さっきのあの子の笑顔、かわいかったな。多分僕は、そういうところが好きになったんだ。と思う。


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