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手を繋ぎたいなぁ。

わざとらしい独り言はもちろん、霧野くんの隣を歩くわたしの耳にきちんと届いていた。問題はそこじゃなくて、霧野くんの言葉の意味。手を、繋ぐ?恋人同士なら当たり前だろうその行動に、最近抵抗は少なくなってきた。黙って手を差し出すと、そっと触れる感触は霧野くんの手だ。あたたかい、冷え性のわたしには持てない温度が、霧野くんの手には存在した。ただ単に繋ぐだけじゃなく、絡めるように指と指とが触れあう。これが、恋人繋ぎってやつか。甘ったるいよいなくすぐったいようた、だけど優しい感じ。
でも何でいきなり、手を繋ぐの?素朴な質問に霧野くんが小さく笑う。「さぁ、何となくかな」……マイペースだなぁ。今さらなんだから諦めに満ちた心も、愛しく思えてしまう。二人っきりの帰り道、通りかかった先の公園で突然霧野くんが足を止めた。どうしたの?霧野くんがジッと見つめていたのは自動販売機だった。

「なぁ、名前。喉乾かないか?」
「別にわたしは……」
「俺今すごくオレンジ系が飲みたい」
「飲めばいいじゃん」

生憎だかたとえ喉が乾いていたとしても、今日は財布を家に忘れてきてしまった。ささっと素早くジュースを買う霧野くんが少しだけ羨ましい。いいなぁ、まるで店先に並んだ無数のおもちゃを欲しがる子供みたい。そんなとき、冷たい感触が頬に伝わった。霧野くんが、もう一本手にスポーツ飲料を手にしていて、それの温度だったみたいだ。

「あの、何これ」
「俺のおごり」
「霧野くん今日はやけに優しいね」
「俺はいつも優しいよ。財布忘れた名前がすげぇ欲しそうな目で見てたからさ」
「べ、別に見てないし!」
「まぁまぁ。飲めよ」

手渡されたスポーツ飲料は冷たかった。当たり前か、温かいスポーツ飲料なんて、誰も飲みたいとは思わないだろう。だけど、何か変だ。スポーツ飲料なら、サッカー部の霧野くんが飲めばいいのに……。仕方なく蓋を開け、一口飲んでみた。特有の味が喉に広がっていく。嫌いな味ではなかった。

「あ、俺にも一口くれよ」
「霧野くん自分のあるじゃん!それにこれ飲んだら、か、間接キスになる!」
「うわぁそういうこと自分から言うなよ」

でもやっぱり強引な霧野くんの力によりわたしのスポーツ飲料は取られてしまった。当たり前のようにわたしがさっきまで口を着けていた場所から一口飲んでいる。恥じらいのないその行為は未だになれなかった。いやだ、絶対こんな光景クラスメイトたちには見られたくない。恥ずかしすぎて苦しい。
どうでもいいことばかり考えていたわたしには、隙がいっぱいだったらしい。霧野くんは不意に近づくと、唇に優しい感触を落としてくれる。嗚呼、キスだ。初めてじゃないから驚かない。だけど、突然のことだから戸惑った。霧野くんは楽しそうに笑っていた。

「よし、帰ろうぜ」

結局、今日の霧野くんの行動の多くは謎だ。いきなり手を繋いでか、間接キスをして、キスをして……できることなら今すぐにでも穴を掘って埋まってしまいたいけれど、今は彼の隣を歩いていることが最優先だ。



/ち絢さん
霧野といちゃいちゃできてますかね


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