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ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーますっ

随分と幼いあの頃の夢を見た。夢に出たあの少女と少年は、一体どんな約束を交わしたんだろう。忘れてしまったのは、それが印象のないものだったから?それとも、わたしの記憶力がかわいそうなくらいなかったから?それとも、忘れてしまいたいものだったから?どんな理由があろうと、それを知る術はないかもしれない。あの頃みたいにお互い笑い合えた日々は二度と来ない。……そのくらい、わたしも彼も変わってしまった。今じゃその名前さえ呼ぶことをためらってしまう。わたしが、わたしなんかが話しかけちゃいけないなんて思っているのかな。本当は昔みたいに仲のいい幼馴染みに戻りたいなんて思っているけど、多分実際はどうでもいい。だって彼がわたしの名前を呼ばなくなったあの日から、どうにも感情のセーブが効かなくなって、結局考えることさえを止めてしまった。そうしたら何て楽なことだろうか。虚無感なんて言い訳に隠してしまった。本当は未だに消えない想いが確かにあるなんて、誰にも言えないけど。


……………
………



「お前って好きなやついるの?」
「え、……は?」

呆けた声が出たのは仕方なんだ。だってだって、彼が、ユウキくんが話しかけてきたんだから。小さなココアの香りをマグカップに混ぜてそれを持ち、ずずっと一口含む。さっきまでわたしのお母さんと話していたっていうのに、いつの間にか移動したんだ。状況整理で頭が追い付いてないわたしにもう一度、ユウキくんが言う。「だから、好きなやついるか聞いてんだけど」正直、それってユウキくんに関係ない。

「べ、別に関係ないじゃん」
「いいから」
「……いますけど、何か」
「、あっそ」

何だよ、あっそ、って。せっかく答えたのに、勿体ない。わたしの一欠片分の勇気返せ。大体、好きなやつって、ユウキくんだし。ああ本人に言えない。何だか不機嫌そうだし。わたし、変なこと何も言ってないのに!
っていうか、いっそ言ってしまえばいいんじゃないか。軽々思ったそれも、考えてみればすごく大変なことで、きっと沈黙があるこの数秒での決心じゃいけない。でも、ユウキくんからわたしに話しかけてきてくれて、馬鹿みたいだけど心底嬉しかったのは誰だったっけ。ああ頬が熱い。服の裾をぎゅっと掴み、目も瞑る。何だか怖くなってきた。

「お前の好きなやつって、俺知ってる?」
「……ユ、……ユウキくん、」
「何?」
「わたし、あの、ずっとユウキくんが、す、好きだったの」

え、と小さな声が漏れた。驚いた?驚いたよね。きっと迷惑だ。幼馴染みだからって、告白はちょっとだめだよね。だって幼馴染みって、恋愛対象外の人多いし。逃げたしてしまいたい。「ごめん、じゃあね」ユウキくんの顔は見られずに、その場を離れようと足が動いたけど、すぐに声がかかった。「名前!」……聞き逃さなかったよ。今、名前、呼ばれたよ。

「昔の約束、覚えてたりする?」
「な、何だっけ」

幼い頃、数えきれないほど約束を交わした。明日ピクニックに行こう、約束だよって。今度から転んでも泣かない、約束だよって。大きくなったら自分のポケモン持って、一緒に旅に出よう、約束だよって。……全部、守れなかったのは覚えてる。翌日熱を出して、ピクニックには行けなかった。やっぱりわたしには痛くて、転んでも泣いてしまった。旅が怖くて不安で仕方なくて、一緒に行けなかった。どれも、わたしが弱かったから。だから距離もできた、変わった。それが今のわたしたち。
だけど、一方的に押し付けた約束じゃない、彼から交わすことを望んでくれた約束が確かあった。ねぇ、覚えているでしょう?忘れたかったけど、忘れられなかった。そうでしょう?

溢れてきた涙はなんと訳そう。嬉しい幸せ優しい恋しい。全部当てはまりそうで困ってしまいそう。ただひとつ、答えるなら彼の名前を呼びたい。「ユウキくん」久しぶりだ。5つの言葉が組み立てる彼の名前はきれいだった。絡んだ指と変わらずに、あの日の言葉を口にした。










「わたし、大人になったらユウキくんのお嫁さんになりたい」
「いいよ」
「え、ほんとう?」
「じゃあ約束しようぜ!ほら小指だしてさ、」


ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーますっ



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