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こんなこと言うのはだめなんだ。だってどこからどう見ても、いや聞いても弱音を吐いているだけ。こんなこと、倉間くんに言うべきことじゃない。だって言ったとしても、何の意味もなさない。言ったら絶対に馬鹿にされるだけなんだから。それでも倉間くんに話そうと思ったのは、彼にたった今告白されたから。柄にもなく真剣な目つきをして、わたしを見据えて、「好き」とその言葉を口にするんだから。でもきっと、倉間くんは夢を見ているだけ。夢を見ているだけ。わたしはその夢から覚ましてあげるんだ。だから、こんなことを言うのは間違ってないこと。……だと信じたい。

「あのさ、倉間くん。もしわたしが男の子だったら女の子にモテてたと思う?」
「は?今その話関係ないだろ」
「いいじゃん、ちょっとだけ。ねぇ、どう思う?」
「……モテてたんじゃね?」

少し黙ってから、答えが返ってきた。ぶっきらぼうな答えは投げやりのようにも聞こえるけど、倉間くんは倉間くんなりに考えてくれたと思う。だってだって、倉間くんはそういう人だから。大した付き合いもしたことないけど、多分分かるよ。クラスでも喋るし、仲は悪くないんだもん。ああ、何処に油断を作った、隙を作った。倉間くんはさっき、わたしに告白した。そのひとつだけが、どうしてもこの世界に起こったのかが信じられない。きっと彼は、答えを待っているんだろうな。だけど、何て答えればいいのか分からない。

「……もしさ、俺が女で名字が男だったら、お前俺を好きになったか?」
「え、は?えっと、わ、分かんない」
「だろうな。そんなのわかんねぇよな」
「うん」
「名字、俺、はっきり言ってくれた方が嬉しい」

ああ、まただ。どうしよう。何て答えよう。気付かれた、バレた。もう後戻りはできないよ。その言葉を口にしなきゃいけないと思うのに、どうしても出てこない。だってそんなの、失礼なような気がしてならない。折角倉間くんは告ってくれたのに。……ああ、何かいい方法はないのかな。

「倉間くん、あのね。倉間くんは間違ってるよ」
「は?」
「わたしなんて好きになったらだめだよ。間違ってる」
「何で」
「わたし、すてきな人じゃないもん」

苦しい言い訳だったかな。言葉を探しても、このくらいしか見当たらない。自分を卑下して何が楽しいのか。でも、倉間くんを傷つけたくないのは本心だから、出てしまった。あぁ苦しい、何て苦しいんだろう。
オロオロしてしまうわたしを見て、倉間くんは小さな舌打ちをした。

「だからはっきり言えばいいじゃん。俺なんて好きじゃないから無理ですって」
「ち、違うよ!別にそんなこと……」
「もういいよ、聞いてくれただけでいいから」



後ろ姿は離れていってしまった。残されたのはわたし一人で周りには誰もいない。何だろう、どうしてわたしがこんな虚無感を感じてしまっているんだろう。同じものを、今の倉間くんも抱えているのだろうか。いやもっと、もっと重く深いものなんだろう。わたしじゃ想像がつかないものなんだ。今のわたしに、彼の気持ちは語れない分からない。仕方ないことだと思うけど、何処か悲しい。そうか、そうなんだ。わたしは彼の真剣な想いをちゃんと受け止めずに、上手く避けることばかり考えてしまった。
ねぇ倉間くん、今わたしはすごくあなたに謝りたい。ねぇ、ごめんね。


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