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それは珍しく暑い日だった。空を仰ぐと流れる風が気持ちいいような、そうでないような。油断してお茶をもってこなかったのがいけなかったのかも知れない。喉は渇き始め、どうしても水を求めている。道路の端にぽつりと立っている自動販売機に駆け寄りたい気分だ。財布を少し揺らすと聞こえてくる硬貨の音に救われた。水を買うくらいのお金はあるみたいだ。
だけど同じことを考えている人がもう一人いたみたいだ。自動販売機の前に人がいる。制服を着ているから、きっと学生だろう。ガコンと音が聞こえ、飲み物が落ちてきた。その人が振り返ったとき、一瞬目を疑った。知り合いと間違えそうだった。

「うわ、名字だ」
「え、倉間?」

紛れもなく、知り合いだ。中学時代の同級生の倉間だ。目を疑ったのは無理もない話だと自分でも思う。本当にこの人はあの倉間?何か、すごく、変わってしまった。

「倉間、背大きくなった?」
「……中学よりは何センチか伸びた」
「前わたしより小さかったのに、今倉間の方がおっきい!」
「だからなんだよ」

まるでどうでもいい、と言いたげな目がわたしを見ていた。ううん、これはどうでもいいことなんかじゃない。由々しき事態だ。じゃあ、何、昔は「チービ」なんて軽口叩けていたのに、もうそれも無理ってこと?今度はわたしが、あの倉間から「チービ」なんて言われる側なの?
成長って恐ろしい。

「はぁ……なんか倉間、変わっちゃったね」
「まぁな」
「あ、そっちの高校楽しい?どう?」
「それなりに。お前は?」
「うーん、まぁつまらないわけでもなく、楽しいわけでもない」

勉強とか部活とか、中学の頃と比べたら大変になったし忙しくなった。それが苦にならないわけじゃない。だけど、なんて言うんだろう。わたしにとっては中学生活の面影が大きすぎたのかな。高校に入ってもうかなり経つけど、何度も中学時代のことを思い出してしまう。
あの頃は、本当に楽しかった。

「おい名字、携帯貸せよ」
「え、何するの?」
「いーから貸せ」
「……何してるの?」
「メアド登録した。俺の」
「はぁ?何で」

確かに、アドレス帳には「倉間典人」とご丁寧にフルネームで登録されている。この数秒でやってしまうなんて早くなった。やっぱり倉間は成長している。それに比べてわたし……自暴自棄でも始まりそうなことを察したのか、倉間が口を開いた。それはとても明るい口調だった。

「メールしてきてもいいぜ」
「……暇だったらね」
「じゃあ俺からする」
「ほ、本当?」

きっと倉間は察してくれたんだと思う。中学時代の想い出がまだ残っているわたしに、きっと前のように話しかけようとしてくれているんだ。そういうところは、変わってない。多分わたしは今、安心している。
背が高くなった。何処か大人びた。だけどそこにいるのは、わたしの知っている倉間だったんだから。



/玲李さん
背が伸びた高校生倉間と再会


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