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※ちょっと注意


ときどき神童の家へ行くと聞こえるピアノの音が好きだ。そっとそっと、来たことを隠して部屋に行くと、入口から優雅に聞こえる。小さい頃はよく鍵盤に触らしてもらって、わけ分からなくても弾くことが無邪気でかわいらしかったのかもしれない。だけどこの年になってメロディにならない音を弾くのは恥ずかしい。それ以来、俺はピアノに触らなくなってしまった。でもいいんだ、聞くことができるから。
音楽なんてからっきしでダメなくせに、音楽鑑賞が好きなんて洒落てるのかな。神童が弾く音は何となく分かる。曲名までは分からなくても、何回聞いたとかどのくらい上手くなったのか、とか。そう思うと俺って、何だか上から目線かも知れない。ちょっと失礼だったかな。
そういえば、名字も楽器弾けるんだっけな。思い出したそれは、つい3日前に聞いたメロディだった。神童はピアノを弾くけど、名字はヴァイオリンだったな。あいつは今もこの時間、弾いているのだろうか。部活がない今日、何となく会ってやろうという気が起こった。やっぱり俺って、何処か上から目線かも知れない。


……………
………



部屋は少しだけ暗かった。と言ってもまだ3時とか4時という時間帯だから、真っ暗というわけでもなかったが。ただカーテンは閉め切っていて、その隙間から差し込む光が眩しい、と小さく名字が呟いている。ああ、どうしてこんな状況になったのか分からない。何で俺、今名字を押し倒してるんだ?自然と名字の顔を見下ろす体勢となり、だけど名字は落ち着いていた。慌てることも怖がることもしない。そりゃそこそこ仲良い間柄だからな。だけど、それなら逆に戸惑ったりとか、しないのかよ。なんかちょっとだけつまんない。

「で、何がしたいの?」
「俺もよく分かんない」
「じゃあ退いてよ。わたしヴァイオリンの練習したい」
「それは嫌だな」

あああああ、何でそこで嫌だな、なんて言ったんだ!別にいいだろ、退いてやれば。だけど心の何処かでそれが拒否している。名字の手を掴んでいる力が強くなって、少しだけ名字の表情が崩れた。悪い、と一言かけると、睨み付けられる。当たり前の反応だ。

「あのさ、名字」
「何?」
「俺、お前のヴァイオリンの音好きだ」
「…ありがとう」

何が言いたいんだろう。ここでヴァイオリンの話題なんて合ってない。だったら名字に、練習をさせてやればいいのに。俺は、何がしたいんだ。しばらくすると、小さくだけど名字の唇が動いた。何か言っている。「わたしは、霧野が好きって言ってくれるから、ヴァイオリン好き」……きっと今、名字のことすごくかわいいと思った。

「なぁ、抵抗しないの?」
「多分しない」
「俺が何しても?」
「分かんない。でもしない思う」

名字の制服のリボンを、ゆっくりと解いていく。少しだけ見えた白い肌とくっきりと線を浮かばせる鎖骨がきれいだった。素直にそう、思えた。名字は笑っていた。穏やかな微笑みは俺を見て、小さく言うんだ。

「素敵ね」

その言葉の意味を考えるのは、後回しにしてしまおう。


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