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「名前、手出してみて」
「何、トウコちゃん」

言われたからその通りにしたまでだ。もしかしたら何かくれるのかも知れない。この間トウコちゃんお買い物したって言ってたから、そのお土産のお菓子かも!だけどわたしの想像とは違い、手と言うより腕を掴むとぐいと引き寄せられた。何が起こったのか分からない。とりあえず、トウコちゃんの顔がわたしの手と重なってよく見えない位置にある。ど、どうしたの?その声は掠れてしまった。

「手、かさかさじゃない!ちゃんとハンドクリーム塗ってるの?!」
「は、ハンドクリーム?何それ」
「お願いだから塗って!じゃないとわたし、泣ける」
「ええっ、ど、どういうこと?!」

目元を手で覆い、まるで泣いているかのような体勢をしてトウコちゃんは言った。「お願いだからハンドクリームを塗って」と。……そういえば前にも同じようなこと言われたことあったなぁ。それは果たしていつのことだったろうか。忘れてしまうくらい昔のことだった?嗚呼、いちいち手に何か塗るなんてベタベタするし、あんまり好きじゃない。だから今まで、それをしてこなかった。
だけど、確かに言われてみれば……自分の手を触ってみると、確かにかさかさだった。まるで歳を無駄に重ねたおばあさんのようで、少しだけ恥ずかしい。このままにしてたら、わたしも泣けてくるかもしれない。そうならないように、今日はちゃんとハンドクリームを塗ろう。心の中でそれを小さく誓い、ハンドクリームのある一階へと降りていった。


〜〜〜


「あれ、名前何してんの」
「トウヤ君、ハンドクリーム知らない?」

一階に降りると、ソファには雑誌を読んでいるトウヤ君がいた。一応邪魔をしないようにとこっそりハンドクリームを探していたのだが……如何せん、普段使っていないものだから何処に置いてあるか分からない。がさごそと音を立てたつもりはないが、小さな音にもトウヤ君には聞こえてしまうらしい。気付かれてしまった。

「ハンドクリーム?誰が塗るんだよ」
「わたしだよ」
「名前が?お前にハンドクリームなんて必要ないだろ」
「酷い!わたしだって使うよ!ほら見てよ、こんなに手荒れちゃった」

見せて何になるわけじゃない。だけど、差し出した手を見つめ、トウヤ君は鼻で笑った。……トウヤ君に見せようとしたわたしが馬鹿だったのか?「ほんと、かっさかさだねぇ」なんて含みのある笑みを浮かべるトウヤ君には、馬鹿にされた感じだ。やっぱり見せたわたしが間違っていた。頭に来たわたしは、「もういいでしょ」なんて言ってもう一度ハンドクリームを探すことを試みる。
だけど、引っ込めようとした手をトウヤ君が掴み、離してくれなかった。さっきからのトウコちゃんといいトウヤ君といい……何でわたしの手を掴みたがるんだろう。いいことなんて、これっぽちもないのに。
離してよ、そう言おうとしたとき、トウヤ君がわたしの手の甲を舐めた。まるで王子さまが手の甲にキスをするかのような描写だけど……ダメだ、身体に悪寒が走る。トウヤ君に、舐められた!

「と、トウヤ君!何してるの?!」
「舐めた」
「それは、舐められた身だから分かるけど、何してるの?!」
「いや舐めたら治るだろ?」
「そういう問題じゃない!」

恥ずかしい恥ずかしい。頬が熱くて身体が熱くて。どうしたら分からないところに、ひょいとトウヤ君が何やら持ち出してきた。それはわたしが探していたハンドクリームで、何やら嫌な予感しかしない。

「これ、お前の探してたハンドクリームだろ?」
「そ、そうですね……」
「手貸せよ。俺が塗ってやるって」
「けけけ結構です!」

だけどそれは無駄な抵抗で、自然と空気がトウヤ君にハンドクリームを塗ってもらうものへと変わってしまう。気恥ずかしかった。さっき舐められたこともそうだけど、今日のトウヤ君は何処か優しい。逆に不安になってきてしまうよ。

「はい、できた」
「あ、ありがとう、ございました……」
「これからちゃんと塗れよ。名前は手、綺麗なんだから」
「え、」

聞き間違い、じゃない。トウヤ君が笑っている。優しい、とっても優しい表情で。嬉しくてトウヤ君に抱きついた。今日のわたしは自分でびっくりする程大胆だ。でも、いいの。だってトウヤ君も抱きしめ返してくれたから。



いおさんへ!
オフ会ありがとう。これからもよろしくね。大好き!


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