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時計が示す時刻を疑いたくなった。確かに昨日寝るのは遅かったけど、3時というのは、流石に寝過ぎじゃないだろうか。今日が休みだったからいいものの、いささか不安が募っていく。こんな生活を続けていては、いつか昼夜が逆転し、朝起きられなくなってしまう。もし、そんなことになったら、起きられるどうこうより、自分が情けなく思えて仕方ない。布団から出ると、とりあえず椅子に腰掛け、ふと考え事を始める。昨日何時まで起きていたのか、とか。昨日の夜――いや、今日の朝まで何をしていた、とか。記憶の中にそれ程残っていないそれを、無理に掘り起こそうとは思わない。
あ、そうだ朝ご飯――ついでに昼ご飯、どうしようかなぁ。何もないというのに、辺りを見てみたけれど、やっぱり何もなかった。一階に降りれば、何かあるのかもしれない。小さな期待を抱き、階段を降りていく。昼間だというのに明かりは点いておらず、少しだけ暗かった。台所に食パン、野菜など、先程までサンドウィッチを食べていたと思われる食材が置いてある。そんなとき、お腹がぐぅと鳴った。ついでにひとつ、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。

「名前、何してるん?」
「マサキさん、おはようございます」
「何がおはようや。もう昼間やで。今日もよう寝たなぁ」
「ごめんなさい」
「いや、別にええんやで。せやけど、腹減っとるやろ?」

はは、と小さく笑い、マサキさんは台所に用意されたものを手に取った。何か作ってくれるのかな。
笑ったまま、マサキさんは話し出す。「昼はサンドウィッチ食べてん、名前も食べるやろ?」と。そのの言葉にまるで、返事をするかのようにお腹がまたぐぅと鳴った。今の絶対、マサキさんに聞かれた。だってマサキさん、すごく笑ってる。

「聞かんでもええみたいやんなぁ」
「ご、ごめんなさい」
「何で謝るん。別にええって。わいが作ったるで、ちょっと待っとき」
「わ、わたしも作ります…!」

遅く起き託せに、作ってもらうなんて何だか申し訳ない。慌ててマサキさんに駆け寄ると、彼は笑顔で「じゃあ名前はレタス洗ったって」と言ってくれた。
でも、何だろう。さっきからそうだけど、今日のマサキさんはよく笑ってくれる。いつもより、少しばかり機嫌がいいみたい。ときどき話しかけても無視されてしまうのは、仕事とかでイライラしているときだ、って本人が申し訳なさそうに言っていた。最近、いいことでもあったのかな。

「マサキさん、何か、今日は機嫌いいですね」
「は、何言ってるんや。いつもやろ」
「そうですかねぇ」
「あ、そや名前。昨日何時に寝たん?」
「4時、ですかね」

もうお昼と呼ぶのにも遅い時間、おやつの時間に起きてくるのはやっぱり流石にダメかな。4時、と11時間前のことを言うと、マサキさんは笑った。「それはあれや、あかんわ、遅すぎるで」……やっぱりそうか。そりゃ、笑われるよなぁ。今度からはもっと早く寝るようにしなくちゃ。
そういった小さな会話をしているうちに、サンドウィッチは出来上がってしまった。言ってしまえば重ね合わせるだけのサンドウィッチに何分もかけることじゃない。早速いただくと、いつも食べているそれと余り変わらない。だけど少しだけ、新鮮に感じた。

「味、どうや?」
「美味しいです。ありがとうございます」
「せや、名前。それ食べ終わったらどっか行かへん?」
「どっかって、何処ですか」
「そんなん後で考えりゃええんや」

ふわり、何故か頭を撫でられた。黙々とサンドウィッチを食べていることで、反応をしなくて済んだのかも知れない。だけどマサキさんが小さく呟いた。「名前の食べとる姿見とると、まるでリスやな」……それは一体、どういう意味なのか。わたしは単純な人間だから、そんなこと言われると素直に嬉しいと思ってしまう。果たしてそれが褒め言葉なのか、それとも貶したのかは分からない。だけど、まぁ、いっか。どうやら今日一日、マサキさんと過ごせるみたいだから。



炭さんへ
オフ会ありがとう!大好き。これからもよろしくね。


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