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空は青く、吸い込まれそうな勢いで広かった。手を伸ばしてみても、あの白い雲には届くわけなくて、でも、行けるものならそこまで行きたいなんて思った。きっと、一生かかっても無理だろう。こうして、今だって、空に届きたくて登った木も、高さに負けて届かない。はぁ、とひとつ吐いたため息も、きっと報われることはないだろう。周りを見渡しても、人気のないこの道に、声を発することも無駄に終わる。さぁて、どうしようか。解決法の見つからない問題を抱え、その日一晩を過ごしてしまうのは正直ごめんだ。さて、どうしようか。
そんなとき、声が在った。名前を呼ぶ、何処か聞き覚えのあるそれは、3日ほど前に会話した彼のものだ。まさか、とは思ったけど、木の下を見下ろしてみる。確かに、彼はそこにいた。なんてことだ、これで助かる。

「あぁユウキ君!いいところに通ったね!」
「は、え、名前さん、何してるの」
「空が青くて綺麗だったから、木登りしたのよ。この位置からだと、ちょっとユウキ君の声聞き取りにくいかも」
「え、何て言った?」

丈夫で高いヒマワキシティの木からでは、やはりユウキ君も声が聞きづらいようだ。正直、下からこっちに向かって何叫んでるのかよく分かってないんだけど、きっとわたしの声は聞こえてないんだろう。仕方ない話だ。
だけど、彼の助けが必要なんだ。叫んでもいい、恥ずかしくてもいい、ユウキ君の、助けが必要なんだ。

「ユウキ君、ひとつ、頼まれてくれない?」
「え、何を?」
「わたしさ、木に登ったら降りられなくなっちゃった!助けて!」
「え」

とても簡単なことだ。ユウキ君の手持ちに、いつもいるチルタリスを借りたい。きっと、意味は分かってくれたんだろう。モンスターボールを出そうと、素振りが伺えた。だけど、彼の表情は一変する。口パクでも見えた、「今日、チルタリス持ってない」……さて、どうしようか。
次に思いつくものは、ユウキ君自身がここまで来て、わたしを担いで降りる……って言うのは果たして年下の彼にできることなのだろうか。意外と力強そうだし、大丈夫かな……まぁでも、聞いてみる価値はある。もう一度大きな声を張り上げ、それを口にした。「ユウキ君ここまで登ってこられる?」

だけど、やっぱり彼の表情は一変した。まるで、申し訳なさとこの世の終わりを見たかのような、複雑な表情だ。もしかして、本当は考えたくなかった。今まで何度も会って、旅のことなど、わたしの知らないことを色々教えてきてくれたユウキ君が、まさか――。違うことを願い、聞いてみる。「ユウキ君、木登りできますか?」どうして敬語になってしまったんだろう。彼のプライドを、きっとわたしは傷つけたくなかったからかな。

「ユウキ君?」
「えっと、ごめん。俺、木登りできないんだよね」
「……じゃあ、わたしを見捨てるの?」
「いや、そんなことはしないけど……名前さん、そこから飛び降りられる?」

やっぱりそういったようにことは進んでしまうのか。考えたくなかったから止めてしまったが、地上に降りるにはもしかしてそれしかないのかも。だけど、この高さだ。ビルで言ったら何階ぐらいの高さだろう。正直、ここから飛び降りたらきっと死ぬ。わたしはまだ死ぬたくない。もっと穏やかに過ごせる解決法は……きっと、見つからないんだろう。ちょっと泣きたい。

「じゃあユウキ君、わたしがここから飛び降りても、死なないようにしてくれるんだね?」
「受け止めるよ、頑張って」
「ユウキ君を信じてるからね、大丈夫だよね?」
「任せて」

その真剣に見据える瞳にきっとわたしは負けた。意を決しよう。高いところが苦手じゃなくて良かった。浮遊感も嫌いじゃなくてよかった。下を見ずに、後は彼に全て委ねよう。変ところは触らないでね!と緊張を解すために言いたかったけど、止めておいた。わたしだって、こういうところはちゃんと空気を読もうと思える。
覚悟を決めて、木の幹を蹴り上げた。ふわりと感じる宙を浮いたような感覚も、今は全て考えないでおこう。無駄なことばかり、頭の中を駆けめぐりそうで、きっとそれが恐怖という名前だと知っていたけれど、きっと大丈夫。何たって、ユウキ君が受け止めてくれるんだから。信じてる、だから――。

「うわっ、痛っ」
「よし、やった。ありがと、ラグラージ」
「……え、わたし、助かった……?」
「うん」
「ユウキ君、が助けてくれたの?」
「いや、ラグラージだよ。だって俺名前さん受け止めるなんて、む、無理だし」

わたしは一体何にショックを受けたのだろうか。助かったんだし、喜べばいいはず。だけど喉の奥でそれが飲み込まれるかのように、言葉にできなかった。多分、わたしはユウキ君が王子さまのようにカッコよく助けてくれると思ってたんだ。実際、ちょっと違ったけど。でも、まぁそんなところもきっと、ユウキ君らしいと3日後のわたしは思っているだろう。だから気にしない。

「ユウキ君ありがとう」

だけど今度はやっぱり、受け止めて欲しいなんて。



あんこさんへ
オフ会ありがとう!これからもよろしくね。大好き!


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