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「あれ、この道、どう行くんだっけ…?」


それは、完全に迷子になっていた。ただそれを認めたくなくて地図を広げ、右往左往して、あれこの道知ってる!なんて突っ走り、だけど状況はそう変わらず未だに森を彷徨っている。横を一緒に歩くルクシオはわたしを呆れたかのようにため息を吐いている。ポケモンのくせに、トレーナーにその態度はちょっと失礼だ。むっとしたわたしもお返しに、ルクシオの頬を抓ってやると、噛みつかれた。……いけない、こんなことしてる場合じゃないのに。


「ねぇどの道行けばいいのかとか、わ、分かるわけないよなぁ」


何でわたしは今、ルクシオに聞いたんだろう。日も暮れ、これ以上歩くのは危険かも知れない。いやそれ以前に、暗くなった森の中を、わたしが歩きたくない。よし、今日は仕方ないから野宿でもしようか。ルクシオのくせに生意気で、まるでそれが嫌だと言わんばかりに唸り声を上げてわたしを見る。でも、だって、仕方ないじゃない。道が分からないんだから。


「ルクシオ、こういうときぐらいお利口にしてよ」

「わたしだって、好きで野宿じゃないんだよ」

「ほら、おいでよ。寝よう?」


仕方ないことだと、理解してくれたようにルクシオは肩を落とし近づいてくる。何で今そんな風に落ち込んだんだ。少しだけイラッときたけど、いちいち怒っている程暇じゃないし小さくもない。膝にルクシオを乗せ、撫で、どうか機嫌が戻ってくれるようにと願う。嗚呼、こうしてると本当にかわいいんなぁ。でも、いつか大きくなる。
ルクシオも進化すればレントラー。コリンクの頃も小さかったから、同じように膝に乗せていたけれど、それも遂にできなくなるときが来る。それはきっと嬉しいことで、悲しいことではない。現にわたしは今、悲しくなんかない。だけどちょっとだけ、寂しいだけ。


「レントラーになったらさ、わたし、寄りかかってみたい」

「きっと毛がさらさらしてて、気持ちいいんだろうなぁ」

「ねぇ、いいよねルクシオ?」


返答はなかった。見てみると、すやすやと穏やかな寝息を立てている。さっきまでため息吐いたり、わたしに唸り声上げたり、ほんとにこの子は状況によって態度が様々だ。だけど、そこがかわいくて面白くて、一緒にいて楽しい。
ふとこの子がレントラーに進化する日を考えたけど、それは実際いつの日のこととなるんだろう。きっといつか来るんだろうけど、まだ分からない。そのときまで変わらず、一緒にいて、楽しく過ごせていればいいと、切実に願っている。そのときになるまで、きみの隣にいられるトレーナーで、わたしも在りたい。こんな小さな森で、いちいち迷子になってちゃ、カッコ悪いんだ。
日々成長していくルクシオと、一緒に大きくなりたい。そう、心に決めて、そっと目を閉じた。吹き抜けていく少し小さな風が頬を撫でても、気にならないほど、その日はよく眠れた。



title by ashelly


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