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ねぇボーマンダは覚えているかしら。

ずっとずっと前から、わたしたちは森で遊ぶことが多かった。空気の美味しい緑の中じゃ心地よいからだ。思い出話をするにはまだ明るすぎる時刻でも構わない。もたれた背中は温かかった。いつもの体勢が眠気を誘う。ひとつ大きな欠伸がボーマンダの口から漏れた。眠いの?そう問いかけると反応はない。いつもならちゃんと、答えてくれるのにな。

わたしのボーマンダは大人しい性格だった。何処へ連れて行っても小さな子供から恐れられることなく「このボーマンダ、とってもいいこね!」と褒めてもらえる。それが嬉しくて嬉しく、ボーマンダはわたしの誇りで、何処へ行くにもこの子なしじゃ考えられなくなっていた。きっとこれからもそう。わたしはボーマンダと離れたくなくて、離れることを知らなくて、ずっとこれからも、離れることがないようにと願っていて、ボーマンダが一番の友だちだと思っている。ねぇこれってすごく素敵なことじゃない?

癖か何かは知らないけど、わたしは独り言が多かった。今も呟いているのは全部独り言で、ボーマンダが聞いてくれていなければ完全に寂しい人だ。友だちがいないわけじゃ、ない。ただいつも一緒にいないだけ。わたしの話している言葉が分かるのか、ときどきボーマンダは小さな反応をくれる。肯定を表すときは首を縦に振り、否定を表すときは首を横に振る。怒っているときには唸り声を上げ、喜んでいるときにはにっこりと笑ってくれる。そんなひとつひとつの丁寧な表情が好きだった。この子は大人しいと同時に、とても優しい性格だった。決して誰だろうと、ひとりぼっちの子を見捨てようとはしないんだから。

「ねぇいつかわたしがいなくなっても、ボーマンダは元気でいてね」

小さいときから、身体は強い方ではなかった。一晩中、ベットの中で過ごしている日も多かった。自分の身体のことだから、分かることもある。わたしは長くないとか、もしかしたら明日、ぷつりと息を止めて死んでしまっていたりとか。……本当は嘘。全部嘘。身体が弱いことは事実だけど、きっと死んでしまう程まで酷くはない。ただあくまで、わたしの勝手な想像の話。もしそうなったとしても、ボーマンダにはずっとずっと元気でいてほしい。あの大空を羽ばたく姿が一番好き。本当はボーマンダには空が一番似合っている。きっと、そうなのよ。

「だからね、ボーマンダ。わたしが死んでしまったら、あなたはその何十倍も生きてほしいのよ」

瞬間、腕に痛みが走った。一瞬の出来事だったから声を上げずに終わったけど、何がおこったのかわからない。ただ腕から少し赤い血が流れていて、ボーマンダがわたしを睨み付けていた。ああ、うん。柄にもなく怒らしてしまったようだ。「ごめん」素直に口から出た言葉は、ボーマンダにちゃんと届いているだろうか。
軽い発言だった。死ぬとか何とか軽々しく言うことじゃなかったんだ。ただ口走ってしまっただけなんて、言い訳として通用するのか分からない。だけど機嫌を損ねてしまったボーマンダには、一刻も早く謝っておきたかった。

「ねぇごめんね。今のは嘘よ。本当はね、本当は……わたしが生きる何十倍もボーマンダは生きて、それと同じくらいわたしも頑張って生きるようにしたいの。えっとね、結局は何が言いたいのかっていうとね」


つまりは、ずっときみといたいということ
だから機嫌を直して、一緒にお昼寝でもしようよ



/巴さん
原型で優しいお話


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