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さて、どうしようか。扉を目の前にして今更迷いが浮かびまた消えていく。確かに浜野は言っていた。「帰りに寄って、言えばいいじゃん」と。軽いノリのようにさらりと言えば、それは伝わるのか分からないけど、でも今はとにかく倉間くんに会わなきゃ何も始まらないし何も終わらない。それだけは、何となく分かる気がした。多分わたしが倉間くんに聞きたいことはただひとつ、「どうして約束守らなかったの?」だ。
……もしかしたらわたし、嫌われているのかも知れない。だから、朝は頷いてくれたかも知れないけど、嫌気が差して無視された。……考えられなくもない。だって、倉間くんってそういうところは嫌な性格してるもん。仮にも好きな人を、こんな風に心の中で思ってしまっているなんて、わたしって汚い。ちょっと嫌になりそう。
でも、今はそれがどうこうの問題じゃなくて、目の前の扉を開ける勇気があるかないかの話だ。思い切ってインターホンを押して、ちゃんと問いただすのか、それともまぁいっかと割り切り、自分の部屋に帰っていくか。そこが問題だ。

「おい名字、お前人ン家の前で何やってんだよ」
「げっ……く、倉間くん、なんでここにいるの」
「げ、って何だよ。げ、って。今練習の帰り。見れば分かるだろ」
「制服姿の倉間くんに言われたって、分からないよ!」

もしそれがユニフォーム姿で、疲れに満ちた顔をしていたなら、話は別だ。わたしだってそれが練習帰りだということも分かるんだろう。だけど、まるでさっきまでゲーセンで遊んでましたような雰囲気を出して、「見れば分かるだろ」と言われても、分からない。まぁゲーセン帰りの雰囲気は出してなかったけど。失礼かな。
大体、浜野は帰ったって言ってたのに、違うじゃないか!まさか、嘘吐かれた?いや、流石にそこまでは疑いすぎ。いくら何でも、それは酷い。大体、浜野がそういう奴じゃないってことは、知ってる。疑うのは止めよう。でも、謎は深まるばかりだ。約束破って、練習を今までしてたなんて、もしかしてずっと校庭にいたっていうの?わたしが見えてなかっただけで、実は倉間くんはずっと待ってたなんてこと、あるのかな。

「ねぇ、何処で練習やってたの?」
「河川敷。部活終わった後、神童に誘われてさ」
「ふぅん。じゃ、じゃあさ、何で約束破ったの?わたし、今日の朝話があるから待っててね、って言ったのに」
「あ、忘れてた。悪い」
「………」

ちょっとだけ腹が立った。それと同じくらい、ちょっとだけ安心した。そうか、別に、無視されたとか意図的に約束を破られたわけじゃないんだ。……まぁ破られた理由が単なる「忘れてた」だけだったことに、イラッとしたけど。要するに、朝決意をして倉間くんに話があると提案したけど、それも倉間くんには伝わってなかったということなのか。わたしの決意返せこのやろう。今言っても、倉間くんに言っても、状況は何一つ変わってはくれないけれど。

「あー悪かったって、ごめん。で、話って何だったんだよ」
「は?今それ聞くの?」
「今でも言えるだろ。何だったんだよ」
「あーうん、あのね、多分今は、言えないの」
「多分ン?」

訝しそうに、わたしを見つめる。それから逃げるように、わたしはさっと目を逸らした。今はこれ以上話せない。だって、やっぱり言えない。止めてしまうのは羞恥の感情なのか、恐怖の感情なのか。占めるのは、どちらなのかな。でも、やっぱり言えない。今は言えない。今のわたしじゃ、多分無理なんだ。

「また、今度でもいい?わたしがちゃんと、気持ちの整理ついたときに」
「別にいいけど、それまでその話題ってあるのかよ」
「うん、あるよ」

わたしが倉間くんを好きだと思っている限り、わたしは頑張ってきみに告白しようともがいてみせる。だからそのときまで、少しの間だけ距離を置き、自分の気持ちを考えようと思う。明日からもう、一緒に登下校なんてことは止めてしまおう。だってわたしらしくないし。わたしはわたしのやり方で、心を決めようと、今思った。そうしたら、想いを伝えるときだって、迷わない気がする。


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