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よく晴れていた。気温も寒くなく熱くなく、微妙なところ。風が少し強いくらいだろうか。肌寒く感じるのはそのせいだろう。緊張も寂しさも正直ない。わたしだって、中学とは離れるけど、そのままのメンバーで高校に行けるんだから。嗚呼でもそういえば、クラスの中にも外部を受験した子いたなぁ。その子たちとは離れてしまうわけだけど、それは仕方ない。だってそれが、彼らの選んだ道なのだから。
何気なく振り返ってみると、不動は目を瞑っていた。あ、寝てる。絶対寝てる。今は後の方のクラスが順番に名前を呼ばれ、卒業証書をもらう為に立ち上がっている。わたしたち1組はとっくに済ませてしまっていた。要するに、暇なんだ。だからって、寝ることはないだろうに。あくまでも今日は卒業式。緊張がないとしても、昨日先生に言われたとおり、やるときはやらなきゃ。でも起こそうと思わなかったのは、先生にでも見つかって怒られればいいなんて思ったからだ。ざまぁみろ。

「何じろじろ見てんだよ」
「げ、不動起きてたの。別に見てないし」
「まぁいいけどよ。あ、今から歌うんじゃね?いきなり立つ奴」
「あぁそうだったね。遅れるなよ不動」
「お前誰に向かって言ってんだ」

卒業記念贈呈品を、代表の子が項目を読み上げ、席に戻った瞬間、前奏が流れ出した。遅れず立ち上がり、歌い出した周りの声がよく聞こえる。後ろから、不動の声も聞こえてきた。驚いた、やっぱりこういうときは不動でも歌うんだ。意外だなぁ。
この歌を歌えば、卒業式は終了し、教室に戻って簡単なHRを済ませてしまえば帰れる。わたしは早く帰りたかったのか。他の子たちは昨日の予行練習のとき、
「卒業したくない」
「まだこのままでいたい」
なんて言っていた。願うことなら、わたしもそれを求めよう。だけど時間はただ過ぎていくばかりで叶わないんだ。だから、もういい。正直そこまで悲しくもない。だって中学3年間を過ごしてきた仲間たちは、ほぼ全員一緒に高校もいけるんだから。中高一貫のところに通っていると、他の学校とは違う色を味わえた。公立なら本当にさよならかも知れないけど、わたしたちは一緒なんだ。悲しいと思えないのも、仕方ないことでしょう。だって、入学式にまた、会えるんだから。
気付いたら歌は終わり、卒業式は終わっていた。教室に帰るとき、HRのとき、何だか心の中が空っぽのような感じがしたのは気のせいか。ううん、多分そうだ。卒業式に虚無感なんて笑えない。そんなこと、あるはずないよ。


……………
………



「あれ、何でわたし不動と一緒にいるの。何で不動が帰り道にいるの」
「一緒の方向だからだろ」
「……みんなと写真とか撮らないの?思い出残しておいでよ」
「は?お前こそ撮りにいけよ。大体、親はどうした」
「……何かデートに行った」
「はっ熱いな40過ぎても」
「まだ40代じゃありませんー。っていうか不動の親は?」
「来るわけねぇだろ卒業式に」
「あっそ」

聞いちゃいけないこと、聞いてしまっただろうか。とりあえずそれ以上触れないように話題を変えようと、口から出たのは「やっぱり卒業式は泣けるね」だった。わたし、何言ってるんだろう。確かに悲しくないとか何とか言ってた割に、HRでクラスメイトと号泣してしまった。悲しいわけじゃないのに、どうしても泣かずにはいられなかった。……まぁ不動が泣くとは思ってないけど、やっぱり泣きたいような気分になったのかな。こんなこと聞くなんて、きっと野暮なんだろうけど。

「っていうかわたしたちって高校も一緒だよね」
「うわー嫌だ」
「そういうこと言う?またよろしくな、とかカッコいい言葉は出ないの?」
「お、あれ鬼道クンじゃね?」
「え、どれどれ?」

不動がわたしの質問に無視したのを無視し、不動が指さす方向を見てみた。……確かにあの特徴的な姿をしているのは元帝国学園サッカー部だった鬼道くんだ。1年前に雷門中に転校してしまったっけ。今この時間に制服で歩いているなんて、まさか彼も今日同じように卒業式だったのかな。「声、かけてもいい?」「なんで俺に聞く」「え、何となく」「嫌だよ面倒くさい」「じゃあいい」不動はそんなに、鬼道くんと仲良くなかったっけ。と言っても、わたしだってそんなに仲が良かったわけじゃない。2年生のとき、同じクラスだっただけだ。……鬼道くんは、覚えてないのかも。
もし今日、鬼道くんも卒業式なら、彼は1年間とちょっとを共に過ごした仲間たちと離ればなれになっていくのかな。……やっぱり、わたしたちと違って、悲しいのかな。泣いたのかな。分からないけど、きっとわたしが抱いた感情とは全く違う想いを浮かべたに違いない。
そう思うと、卒業式に素直に悲しいと思える環境にいる彼が少しだけ羨ましかった。馬鹿みたい。羨ましがるところ、明らかに違うのに。

「ねぇ不動」
「あ?」
「高校も、よろしくね」
「……んーよろしく」

少し沈黙があったけど、少し面倒臭そうだったけど、不動はちゃんと「よろしく」と返してくれた。そっか、わたしたちはわたしたちの感じる感情があって、鬼道くんには鬼道くんたちの感じる気持ちがある。それが悲しいのか寂しいのかなんて分からないけど、でもきっと、わたしは帝国に通えて良かったんだ。だって、同じ友だち、仲間にもう一度4月になったら出逢える。それはそれで、いいのかも知れない。
わたしたちが在って、他が在る。違うからいい、とか何とか昔誰かが格言のように言っていたっけ。だから、それでいいんだ。

「じゃあね不動!とりあえず、入学式でまた会おうね!」
「おーまたな」

そう言って、わたしたちは一旦別れた。春になって桜が咲く頃、もう一度会える日が来るだろう。だってそこが、次にわたしたちが生きる場所なんだから。だから、そのときまで少しの間、さようなら。


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