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※帝国学園が中高一貫だったらの話


がつん、小さくて大きい音が鳴った。これで何度目だろうか。振り返ることも面倒になってしまったのは、心の何処かでわたしが呆れ切ってしまっているからかな。ともあれ、振り返ることはせず、静かな声で呼びかけてみた。「何度も何度も、痛いんですけど」それに鼻で笑ったような音が聞こえたのは気のせいだろうか。やっぱり我慢ならない。振り返り、もう一度言ってやる。今度は半ば怒鳴るような気持ちだった。「いい加減にして!蹴らないでよ!」

「前向けよ。今卒業式の予行練習中だぞ」
「練習中に後ろから蹴ってくるのは誰よ!止めて、って言ってるでしょう?!」
「さぁな。ほら、先生見てるぞ」

イライラしたように足を小刻みに揺らし、わたしをじっと見ているのは担任の先生だった。確かに怒っている。わたしが後ろを向いて、大きな声出しちゃったからだ。舌打ちをひとつ、不動に返し前へむき直した。もし休憩に入ったら、真っ先に文句言ってやる。これが何度目だと思ってるんだ。絶対、文句言ってやる。
校歌、卒業式の歌と練習し、一旦休憩に入ると、真っ先に担任の先生が飛んできた。「名字、不動、お前らちょっとこっち来い!」そんな風にあからさまに怒った雰囲気を出さなくても……同じく呼び出された不動は不貞不貞しい顔で舌打ちをしている。こうなったら道連れだ。元はと言えば、こいつが全部悪いんだから。ざまぁみろ。

「お前ら毎回毎回、ふざけすぎなんだよ!明日が卒業式って、分かってるのか?!」
「もちろん」
「分かってるならやるときはやれ!いいな?」
「はーい」

返事をするときは「はい」で十分だ!伸ばすんじゃない!……嗚呼うるさい。どうして教師ってこうなんだろう。何度も同じことばかり言うんだから。分かってるって言ってるのに、何度も言われたらやる気を失ってしまう。やっぱり全部、不動が悪い。

「俺まで怒られる意味なくね?」
「不動がわたしの椅子蹴ったからこうなったんでしょ?!」
「だって暇だったし」
「わたしだってそうだよ!大体、不動の暇潰しがわたしの椅子蹴りなの?」
「まぁな」
「うっわ最低」

よく不動とケンカしてるな。痴話ケンカか?嗚呼止めて欲しい冗談だった。言った相手を幾度もなく殴りそうになったのを抑え、とりあえず否定の連打をし、その場を収めたのはいつの日の記憶だろうか。ケンカはよくする。だって不動がうざいから。それを痴話ケンカと言うのなら、辞書で一度ちゃんと意味を調べてくれればいいと思えてしまう。わたしと不動は仲が悪い、そう、それが正しい回答なのに。
動いた目線の先には、卒業式の歌を口ずさんでいる不動がいた。正直、似合わない。いつもは口パクで歌ってるくせに、明日の本番はちゃんと歌うのかな。不動が?……想像できない。あまりにもシュールで信じられない。こんなこと本人に言ったら失礼かな。

「……何笑ってんだよ」
「だって、不動が歌ってるの変なんだもん」
「あーそうですか。そうですか」
「何で今2回言ったの?」
「気分」
「あっそ」

クラスメイトの笑い声話し声、……流石に、泣いてる人はいないだろう。明日の卒業式なら有り得るのかも知れないけど。高校へ行くことが嬉しいのか楽しみなのか、中学と別れることが悲しいのか寂しいのか。まだわたしは分からない感情だ。きっと、明日にならなければ分からない。
明日楽しみだね、独り言のように呟いたそれに、あほらしと声が返ってきた。あほらしいはないだろう。だけど、正当な理由なのかも知れない。だってわたしたち、あと3年間は別れることなく同じ道を行くんだから。


卒業しました、さようなら


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