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まだ自分からはっきりと言えるようになったわけじゃない。生まれて初めて、恋人を持ったのはいいとして、でもそれからどんな態度を、どんな反応すればいいのかな。一緒にいても平然と会話をする風丸さんは、緊張とか何だろう、これはなんて感情なんだろう。分からないけど、戸惑うことはないんだろうか。付き合って、ってまだちゃんと自分から言えないけど、変わった気がする。毎日、風丸さんの部活が終わると一緒に帰る。それが、当たり前のような日常になった。
彼は、何も感じないんだろうか。どうしてわたしだけ、こんなにも小さなことで悩んでいるんだろうか。まぁいいかと割り切ればいいのに、どうしても何度もそれが思い起こされて許さない。どうしたら、いいのかな。
一緒に歩く帰り道、風丸さんの出す話題は楽しい、素直に笑えたし楽しいと思えた。だけど気にかかるそれが消えてくれない。どうしたらいいのかな。早く解決したいのに、その方法が分からないんだから。

「名字、どうした?」
「え、な、何がですか」
「最近、何か考え事してるからさ」
「か、考え事は、あの、まぁしてます」
「へぇ何を?」
「………」

素直に言ってしまえばよかったのに、どうして、このときわたしは言えなかったんだろう。ただ顔を覗き込まれたから逃げるように背け、俯く。そのとき、不意に腕を捕まれ引き寄せられた。何が起こったのか分からない。ただ気付いたとき、わたしは風丸さんの腕の中にいて、これは抱きしめられているという状況なんだ。だけどここは帰り道、外、何をしているんだわたしたちは。離れたかったけど、身体が動かない。きっとわたしは、まだこの状況を理解していないんだ。

「なぁ名字」
「な、何ですか」
「今度、何処か行こうよ」
「は?」

疑問符を返せば、身体は離れていく。少し先を歩き出した背中を追うように、わたしも歩き出した。思わず聞き返してしまったけれど、要するにつまり、今のって……で、デートというやつか。


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