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※10年後ぐらいのお話


中・高と同じ学校に通っていた名字から手紙が届いた。サッカー部のマネージャーだった名字とはそれなりに会話もしたし、普通だった。ときどき、携帯で電話でもメールでも何かしら連絡してくる奴が、今更何を畏まって手紙なんだろう。封筒を開けて内容を確認すると、目を疑った。結婚します、そこには綺麗な文字でそう書かれていた。嗚呼、あの名字が結婚?ははっ、ははは!不意に漏れた笑い声を抑え、お腹の痛みを必死で耐える。あの男と付け合えるかどうかも不安だった名字が結婚!これは大層なことだ。それで、この手紙は招待状か何かか?場所と日時の書かれた部分を見ると、きっとそうなんだろう。仕方ない、仕方ない。行ってやるとするか。未だに抑えられない笑いを、今はもう抑えようと思わなかった。

〜〜〜

「へぇ。結構デカイとこですんじゃん」

行った場所の教会、自分が思っていたものよりも大きかった。盛大に行われるのか、結婚とやらは。まだ自分にはそういう目的で付き合った人間はいないため、あんまり想像つかない。今を今として見ていないからいけないのか。まぁ別に名字にちょっと先越されたからって、何も思いやしないけど。……始まる前に、ちょっとくらい顔出しておこう。俺にはきっと、それぐらいはしていいと思った。


〜〜


「あ、狩屋!来てくれたんだね」
「おー名字。……なんか、変なぐらいに綺麗だね。やっぱり化けるもんだなぁ」
「変なぐらいって何よ。素直に言ってよ」
「おめでとう」

気持ち悪いくらい素直な言葉に、名字はにこりと笑った。あ、かわいい。素直に思ってやった。だって今日は名字の結婚式。いくら中・高とお互い貶しあって馬鹿にし合った毎日を送ってきたとしても、今日くらいは褒めてあげようって俺だって思える。だから、だろうか。名字も、気持ち悪いくらい素直に「ありがとう」と零した。昔の俺から見たら、有り得ない光景かな。あ、また笑えてくる。
そうだ、忘れないうちに渡しておこう。持ってきた花束を手にして、俺は名字に歩み寄った。祝いに来たのに、手ぶらなんて格好悪い。かと言って大層なものを変えるわけでもなく、まぁ別に花束でもいいだろうなんて投げやりな気持ちだけど、買ってきた。俺の本音もし知らないまま、笑顔でそれを受け取る名字。やっぱり、今日は冗談抜きで名字は綺麗だ。純白のドレスもレースも、何もかもが名字を祝福しているようで、やっぱりもう一言おめでとうと言った。
まだ時間があると言う。座り込んで始まったのはお互いの思い出話。その半数を共有して生きてきた俺たちは、思い出すたびに笑ったり笑ったり、笑った。嗚呼昔はこれが普通だったんだ。笑ったし泣いたし、酷いことも言ったし……告白も、された。嗚呼やっぱり思い出話なんてするんじゃなかった。切なくなったのは俺だけじゃないらしく、名字も少しだけ表情を俯かせた。確かあのとき、俺は名字を泣かせた気がする。別に今更どうしようもない。だって、仕方ないことなんだから。そんなとき、生まれてしまった沈黙を名字が破った。

「ねぇ狩屋、わたしね、今ね、幸せだよ」
「うん」
「だから、狩屋も幸せになってね」

その言葉を、どんな想いで、名字は口にしたんだろうか。小さくうん、と相槌を打ち、立ち上がり部屋を出た。途中新郎と思われる男にを見かけたが、きっとあいつなら大丈夫なんだろうと思った。何に安心しているんだ俺は。まぁ、いいか。
だってどうせ、誰も気にしてないんだから。
蒼く広がる空にを仰ぎ、もう一度呟いてみた。「おめでとう」早く俺も、幸せになりたいと願ったけど、それは贅沢なんだろうか。そうじゃないと、願いたい。



title by ashelly


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