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風丸さんは黙ったままだった。もしかして、わたしが何か言うのを待っている?なら、早く何か言わなきゃ。思えば思うほど、言葉は浮かばない。何を言えばいいのか、分からない。まだ頭の中で完全に理解し切れていないのかも。わたしは、彼に、何を言われた?「俺たち、付き合わない?」――つまり、それはそういうことであって、そういうことなんだ。だから、風丸さんは答えを待っているんだ。

「あ、あの、風丸さん」
「うん」
「さっきの、ことなんですが」
「付き合うっていう話だろ」
「そ、そうです。あ、あのですね、それって、どういう意味なんですか?」

やっぱり、わたしは信じられていなかった。どうしても、どうしても理解できない。どうして、何で風丸さんはそんなこと言うの?付き合うって、アレでしょあれ。恋愛の意味でしょう。嗚呼何度自分の頭で思い返せばいいんだろう。まだ、分からない。
そんなわたしも気に止めず、彼は当たり前のように言った。逆にそれが軽そうにも聞こえ、だけど肯定の強い言葉に聞こえたのは、わたしの気のせいだろうか。

「何でって……好きだからに、決まってるだろ」
「………」
「名字?」
「えっ、いや、その、わたし、そういうのって初めてなんです」
「は?」

説明が悪かった。そう、順を追って説明するなら、恋愛なんて初めてだ。初恋と呼べた記憶の中に存在する恋愛はない。わたしはまだ、恋したこともないのに、もしかして告白されたの?好きだったら、付き合う……恋愛小説はよく読むけど、こんな感じだったのかもしれない。

「それで、返事聞きたいんだけど」
「……は、はい」
「え、いいのか?」
「え、え、えぇ、その、……はい」
「よかった」

ふっと風丸さんが笑う。それにつられて、わたしも笑った。恋って、こういうものなのかな。わたしも今日このとき、風丸さんに恋しているのかな。何かに気を止めることなく、わたしは素直にそれを喜ぼう。だって風丸さんが、嬉しそうだったから。


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