txt | ナノ

思いついたら直ぐに行動する。それがマスターである名前の性格だった。何かやりたいと思えば、直ぐ行動に移し、そこへ行きたいと思えば、僕を使って直ぐに飛ぶ。悪く言えば後先を全く考えないトレーナーだった。
だけどそんなマスターのポケモンとして自分をすごく誇りに思うことがある。他の奴にもちゃんと聞いたさ。例えばマスターのポケモンのチラーミィだって、「私名前のポケモンでよかった!」って言ってたし。後悔はしてないんだ。ちょっと呆れてるだけ。それだけだったのに。
名前は優しい人だから。きっと好かれていると思う。名前の手持ちの中で名前のこと嫌ってる奴なんて、いないよ。むしろずっといたいって思ってる。これから先もみんなでいられたら、って。
だけど僕たちが思ってるような未来を、誰も許してくれなかった。いつもは誰よりも早く朝起きて、誰よりも早く僕の背中に乗って世界へと繰り出す名前が、病院に運ばれたんだって。心配になって、チラーミィを乗せて、僕も病院に向かった。
どうしたんだろう。不安が胸を過ぎる。昨日はいつもと変わらなかったな。少しボーっとしてることはあったけど…そのことを喋るとチラーミィに叩かれた。「様子がおかしいなら、もっと早く言ってよ!」なんて。もしかして、もしかして、僕が気が付かなかった。もっとおかしいな、って思ってたら、もっと早く――。
そんなとき、話し声が聞こえた。病院の廊下からだったけど、十分に聞き取れる。それは名前のお母さんと、看護師の声だった。


「それで、名前は大丈夫なんですか?」
「えぇ大丈夫です。お母様が心配される程ではありませんよ。ですが数日は入院してもらいます。宜しいですね?」
「それで名前が良くなるなら」


入院、それって、当分家には帰ってこないってこと?当分野原も駆け回らず、当分町へも出掛けないし、当分僕の背中に乗って空も飛ばないし、当分僕は必要ない?大丈夫とか、帰ってくるから、とか言われても、多分無理だ。僕は側にいたいよ。名前の側に。いつもずっといたいよ。
背中に乗るチラーミィも少しだけ落ち込んでいるみたいだ。僕もチラーミィもきっと同じ気持ちだよね。分かってても、分かりたくないよね。そうだよね。
僕たちは顔を見合わせ、頷いた。ここでじっとしていられない。





っとのことで見つけた名前の病室は、こじんまりとした場所だった。広い場所が大好きな名前には似合わない場所。だけど僕にはどうすることも出来ない。だけどこうしてやって来た。伝えたいことがいっぱいあるんだ。
チラーミィが器用に窓を叩いてくれる。その音に気付いたか、名前が窓際に来てくれた。良かった。これで伝えられるね。翼を大きく広げ、伝わらなくても伝えたいと強く思う気持ちを胸に、それを叫んだ。僕の背中にいるチラーミィも精一杯伝えようとしている。
ありがとう。ありがとう。ありがとう――。いつも一緒にいてくれてありがとう。いつも空を飛んだり、町に行くとき、世界へ繰り出すとき、僕の背中に乗ってくれてありがとう。君を背中に乗せている時間が、何よりも嬉しく楽しく心地よかった。


ありがとう。


頑張ってじゃない。そんな言葉は言えない。だけど、ずっと待ってるから。だから、だから必ず、帰ってきて欲しい。


そしてまた一緒に、色んな場所に行こう!


騒いだせいか、僕は警備員の人に捕まえられ、家に送り返されてしまった。多分当分は外出禁止だろうなぁ。チラーミィも少しだけ落ち込んでる。でも後悔してない。
伝えたとき、まるで名前に伝わっているように、名前は泣いていた。その涙と引き替えに僕はまた強くなりたい。

今度こそ、あなたを迎えに行くよ。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -