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少し遅れて行った方がいいと思った。すぐ行くと水鳥さんや茜ちゃんに会ってしまいそうだったし、サッカー部の人たちに見られてしまうかもしれない。いや、倉間くんとは友だちでしかないんだから、変なことなんて何もないんだから、いいけど、それでも避けたいと思ったのは恥ずかしかったからだ。チャイムが鳴ってもうすぐ15分は経つ。もうそろそろ、行った方がいいかな。

そんなとき、何処からかサッカーボールが転がってきた。まだ、誰か練習しているのかな。……まさか、倉間くんが待ってたりして。
そうだ、わたしは一応倉間くをと約束したんだから、待っててくれるはずだ。何処で、なんて指定してないんだから、きっと。ボールを持ち上げ、校庭を覗き込んでみると、男の子2人がこちらを見ていた。大きく手を振ると、「ボールくださーい!」と叫ぶ。ちょっと残念だ、倉間くんじゃなかった。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」

グランドまで降りていき、その子にサッカーボールを手渡した。あんまり見ない顔、1年生かな。「倉間くんって何処にいるか知ってる?」投げ掛けた質問を遮るように、後ろからわたしの名前を呼ぶ声がした。「あれ、名字何してんのー」何でよりによって浜野なんだろうか。

「浜野……倉間くん知ってる?」
「え、倉間ならもう帰ったけど」
「……え……、え?」
「帰ったって」
「……う、嘘でしょ」

なんてことだ、いないと思ったら、か、帰ったなんて……。朝に燃えていた気合いも、何処かに行ってしまいそうだ。いや、もう行ってしまったのかもしれない。約束を、破られた。そこまで悲しくて、ショックじゃなかったのはどうしてだろう。心の何処かで少し安堵していたのは、何故だろう。

「もしかして一緒に帰るつもりだった?」
「ううん、もういい」
「じゃあ俺と帰るー?」
「……そうする」

「その人は、浜野先輩のかかか彼女ですか?!」

上ずったような声が聞こえた。さっきわたしがサッカーボールを渡した男の子だ。……何を、言っているのか。思考がうまく働かない。ただ、何故かすぐさま浜野が笑い出した。今、笑うとこかここは。

「違うし!こいつは倉間の友だち!」
「え、そういう風に紹介するの?!」
「間違ってないじゃん」
「……はい、その通りです」

その通りすぎて、ちょっとだけ、悲しかった。嗚呼違う。今更友だちという言葉は悲しくない。何度も本人から言われているんだから、もう、半分諦めが出てきたのかな。

『こいつは倉間の友だち!』

何で、倉間くんが出てきたの?浜野だって、わたしの友だちじゃないの?


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