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用件が済んでしまったから、終わるような関係だと思っていた。次の日からは平穏で元通りの生活に戻っているんだろう。教室のドアを開け、友だちが駆け寄るように「おはよう」と言ってくれる。多分、いつも通りだったらわたしの朝の一言はここで終わっているだろう。クラスの中心に立ったことないわたしは、友だちと呼べる友だち一人におはようと言って終わる。そう、思っていた。だけど、
おはよう、と。
後ろの方から声がかかった。思わず、振り返ってしまった。本当は心の何処かでわたしには言ってないだろうと思っていたけど、振り返ってしまった。立っていたのは風丸さんだった。誰に挨拶したんだろう。部屋を見渡したとき、入口付近に立っていた子が笑顔で答えていた。そうですよね、わたしな訳、ないよね。

そのまま自分の席へ行こうとしたとき、動けなかったのは何故だろう。もう一度振り返ると、風丸さんがいた。いや、そんなことは分かっている。問題は、何故か彼に手を捕まれているということだ。答えを求める目に、風丸さんが言葉を放った。

「無視はないだろ」
「え、な、何が、ですか」
「今、おはようって言った。流石に無視はなくないか?」
「あ、あれ、わたしに言ったんですか?」
「うん」
「ごっ、ごめんなさい!わ、わたしに言ってるとは思わなくて…!」
「ふーん」

探るような目から逃げるように、わたしは顔を逸らした。そんなの、いきなり言われても分からないじゃん。ついこの間まではただのクラスメイト――同じクラスだって知らなかったけど――だから、名前でも呼ばれて指定されない限り、わたしはきっと気付けない。それを、当たり前とも言わんばかりの目で見られたって……答えられ、ない。

そそくさ席へと急ぎ、友だちの場所へと急ぐ。友だちは、不思議そうな顔をして風丸さんへと目線を向けていた。何、どうしたの?彼の顔に、何か付いていた?暢気な質問をはねのけるように、その子は呟いた。「名前ちゃんが男子と挨拶してるとことなんて、初めて見た」……この子はわたしを何だと思っているだろう。そりゃ、自分自信が内気だってことはよく分かってるけど、男の子の友だちだって……そんなの、いなかった、な。反論できぬまま、その子は思ったことを次々と口にする。「風丸と友だちになったの?」「それともそれも通り越して付き合っちゃった?」「最近、図書室行ってる?」最後のは余計じゃないだろうか。答える気もないまま、チャイムが鳴った。
まだ今日は始まったばかりだというのに、何だか疲れてしまった。





その日が終わる、チャイムが鳴った。HRも終わり、部活の子は部活へ、帰宅部の子は帰る姿勢へと変わる中、わたしは一人図書室へ行こうと教室を出た。そんなとき、名字、と呼び止められる。振り返ると、何だか逃げ出したくなった。風丸さんだった。ここ最近、風丸さんと会話するようになったけど、決してわたしはそんなこと望んじゃいない。この人としゃべると、何故か心臓がうるさい。

「あ、あの、何ですか?」
「図書室行くの?」
「はい」
「今日、一緒に帰らない?」
「え、えっ、何で!」
「いいからさ。図書室にいろよ、俺行くから」
「ちょ、え、待ってください!」

わたしは呼びかけられて止まったのに、彼はわたしの呼びかけに止まってくれなかった。酷い、なんてことだ。まぁサッカー部が終わる頃に、わたしはいつも図書室を出ているからいいけど……っていう問題じゃない。時間的なことじゃない。
多分わたしは今日、すごく疲れる。


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