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最近落ち着く場所ができた、トウカの森だ。自分でもよく分からないけど、その場所は今までいたどの場所よりも落ち着いて、穏やかだから。今日も変わらずそこへ出かける俺を、父さんは「またか」と言って笑っていた。本当は、俺自身も父さんも分かっている。落ち着くなんて理由で、ほぼ毎日そこには通わない。会いたい、人ができた。その人は毎日そこにいて、毎日空を眺めている。何をしているかとか何がしたいのかだとか、そんな質問は止めて、お互い世間話をするのが日常だ。不思議なことに、それは全くつまらなくなくて、むしろ楽しい。
木と木が作る木陰に、彼女はいた。根本の方に座り込み、ポチエナを撫でている。そういえば彼女のポケモンはポチエナだった。未だに進化しない幼いポチエナは縋るように彼女にすり寄る。「名前」名前を呼んで、ここにまた来たことを示してみる。名前は静かに笑って答えた。「こんにちは、ユウキくん」今日も澄んだ声だ。

「2日ぶり、だよね」
「うん。まぁ、色々してたから」
「ユウキ君はトレーナーさんだもんね」
「名前もだろ」
「でもわたし、バトルしないしなぁ」

そう言うとまた、ポチエナの背を撫で始める。欠伸をひとつ、気持ちよさそうにはき出すポチエナの気持ちが知れない。お前がバトルしようとしないから、名前は自分をトレーナーじゃないと言い張るし進化もできない。ポチエナに言っても仕方ないのに。
すると突然、名前が空に向かって腕を伸ばし始めた。横から見てると、気持ちよさそうだ。同じように、俺も空を見る。……今日はよく、晴れている。「気持ちいいねぇ」と独り言のように呟かれたそれに、思わず頷いてしまった。クスリと小さな笑い声が聞こえる。名前も同じように空を見上げた。

「日の光を浴びるとさ、何か元気でない?」
「名前だけじゃない?」
「えーそんなことないよ!ユウキ君は、ないの?」
「……さぁ」

曖昧な返答をして、名前の横に座り込んだ。ちゃんとした答えを出さなかったからか、名前はご不満の様子で頬を少し膨らませている。「ちゃんと答えてよー」ちゃんと答えて何も出ないのに。
本当は日の光を当たるというより、空気を吸うことで元気が出る。でもきっとそれを言ったら反論か何か来ると思うから止めておく。ひとつ大きく、深呼吸をしてみると、森の中独特の新鮮な空気が肺の中を循環する。気持ちいい、素直にそう思えた。でもこの空気も、元は太陽の光によって植物たちが生みだしてくれたもの。結局は、太陽に感謝しなくちゃいけない。やっぱり名前の言う「日の光を浴びると元気が出る」というのは正論かもしれない。
名前、やっぱりお前合ってるよ――言おうと振り向いてみると、瞼を閉じ、すやすやと寝息を立てている名前がいた。小さなため息を吐き、埋め尽くしたのは諦めの感情。まぁ、いっか。別に絶対言わなきゃいけないことじゃないし。だけど話し相手がいなくなり自然と沈黙の時間を過ごすことになると、眠たくなってきた。俺も、寝てしまおうか。

「おやすみ、名前」

そう呟いて目を閉じた。木々の隙間から差し込む太陽が目に当たり眩しかったけどきっと気にしない。気にならないほど、心地よかったからかな。



企画:夏公爵さま提出


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