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何か言わなければならない。本能的にそれを悟った。不機嫌そうにわたしを少し睨んで、倉間くんは黙ってままだった。もちろん、言葉を失ったわたしも黙ったまま。二人の間を流れている沈黙の時間を、わたしがどうにかしなければいけない気がした。だけど何をしゃべればいいのか、何をすればいいのか浮かばない。途方に暮れた果て、ひとつ深呼吸をすることで自分を落ち着かせよう。

さぁ、何を言おうか。わたしが何も言わないもんんだから、倉間くんなんて立ち止まり腕を組んで貧乏揺すりを始めてしまった。いかん、早く何か言わなければ。だけどそう急かすたび、頭の中は真っ白な色を広げるだけ。

初めの言葉は「あのさ」にしよう。そうすれば、倉間くんもまだ怒らないでくれるだろう。意味の分からない理由で飾り付け、早く早くと急ぐ気持ちに答えようとする。そう、よく考えれば済むだけの話だ。わたしは今、何をしたいのか。本当にやりたいこと、望んでいることは何なのか。
よく考えれば、直ぐに見つかるものだった。

「あのさ、倉間くん」
「何だよ、早く言えって遅刻するぞ」
「うん、ごめん。あのさ、うん、あのね」
「だから何」
「きょ、今日部活終わってから一緒に帰ろうよ。話したいことがあるんだ」

は?ともへ?とも呆けた声は出さず、ただ呆然としたように倉間くんはそれを聞き流す。数秒後に「あぁ、ふーん。分かった」と納得してくれたようだ。深いところを追求しない、「何だよ話って」なんてそんなこと聞かないで欲しい。きっと鈍感と思われている倉間くんでも、流石に察してくれるでしょう?わたしでも、分かるんだから。今更とぼけることも誤魔化すことも辞めてしまおう。わたしが本当にすべきこと、それは想いを伝えることでしょう?どうなることとか、何が返ってくるとか、気にしてたら負けなんだ。怖くて怖くてたまらなくても、立ち止まっていることの方が歯がゆくて耐えられない。なら、一度当たってしまえばいいだろう。あとのことは、あとで考える。そういったお気楽な方がわたしには似合っているんだ。水鳥さんにも、茜ちゃんにも、話さないで起きたい。何か言われて揺らぐことなんてしたくないの。優柔不断なわたしだから、流されやすい。そんなの、今日で卒業してしまおう。新しい気持ちで、臨む想いで、わたしは今日、自分の意志で伝えようと思えるんだ。

「だから、部活終わったら待っててね」
「…お前も、待ってろよ」
「分かってるって」

そう笑って返事をした瞬間、近くでチャイムの鳴る音がよく響いて聞こえた。やばっ、顔を見合わせて分かる、遅刻だ。申し訳ない気持ちを言葉で表すより、顔で表せば、何故か蹴られそうになった。
わたしはどこも、緊張していなかった。


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