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「トウヤ君、そこ退いて。わたし掃除したいんだけど」
「んー」

太陽がよく照る昼下がり、わたしはずっと避けて通っていた掃除に立ち向かおうとしていた。お母さんに最後「名前、掃除しなさい」と言われてから何ヶ月が経っただろうか。めんどくさがりの性格と掃除を嫌う性格が重なり合い、今までそれを自分の意志から実行しようとは思わなかったものの、流石にわたしの中の危機感がざわめきだした。一応、女の子なんだから。自分の部屋ぐらいは掃除しなくちゃ。

だが行く手を阻むのは友だちのトウヤ君だった。大した用もないくせにわたしの部屋に上がり込み、人の漫画を勝手に探っては読みあさっている。正直その行動に一言言ってやりたいのだが抑え、今は退いてもらうことを優先しよう。

「ねぇトウヤ君、聞いてた?わたし、掃除したいんですけど」
「今更掃除?名前の部屋って汚いよな」
「その汚い部屋に毎回遊びに来るトウヤ君は何なの。文句言うんなら、出てってよ」
「俺漫画読みたいんだけど」

あくまでここはわたしの部屋だ。だからわたしの言うことが一番なはずなのになぁ。どうしてトウヤ君は唇を尖らせ、わたしを睨んでいるんだろう。普通、立場逆でしょう。あぁ、もう、本当に、わたしってトウヤ君に適わないんだから。それが何故なのかは、今まで知ろうとしなかったけど。

何度言っても、トウヤ君はベッドの上から退こうとはしてくれなかった。そのうちにわたしのやる気も段々熱が醒めていく。いつの間にかわたしもつられてトウヤ君と仲良く漫画を読むふける一日になってしまった。それに気付いたのは夕方だ。

「ちょっと、トウヤ君!いい加減にしてよ、もうこんな時間になっちゃったじゃん!」
「名前だって読んでただろ」
「あー、折角やる気出したのになぁ」
「まぁまぁ。今度俺も手伝ってあげるから」
「本当?」

それが嘘に聞こえてしまいそうな程軽い口調だったから、思わず聞き返してしまったけど、トウヤ君はそれに答えずまた漫画を読み始めてしまった。きっとここまで来てしまったらもう止められない。どっと溢れてきた疲労を感じ、わたしはわたしでベッドに飛び込んだ。ふかふかの布団がわたしを包み、瞬時に襲ってくるのは強烈な睡魔。トウヤ君か勝手な行動をしてくれるなら、わたしは勝手に寝てしまおう。
閉じた瞼に奥、そっと髪を誰かの優しい手で撫でられた気がした。



アラタさん相互ありがとう