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月曜日の朝、珍しく目覚ましではなく自分の力で起きたわたしは、何だかとっても気分がよかった。別にその日楽しみにしていることがあるというわけでもない、強いて言うなら、もう一度頑張ろうと決めた日だ。静かに声を潜めるとベランダから聞こえてくる倉間くんとおばさんの声。まだ家にいるということは、もしかしたら今日、一緒に学校に行けるかもしれない。わたしは、どうしてももう一度倉間くんに言いたいことがある。そして、聞きたいことがあるんだ。今こうして勇気を持って行動しようとしている時を逃してはいけない。今日、やらなくちゃいけないんだ。

「じゃあお母さん、行ってきます」
「車に気を付けるのよ、名前」
「分かってるって!」

家を飛び出し、倉間くんが出てくるのを一先ず待機していよう。数分して、制服を着た倉間くんが出てくる。わたしの顔を見ると一瞬怪訝そうな顔をして、「おはよ」と短く言ってくれた。何だかちょっとだけ、嬉しくなった。倉間くんからおかようなんて言ってもらえるなんて。

「珍しいな。お前が俺を待ってるなんてさ」
「うん、あのさ、学校行きながらでいいから、話したいことがあるんだけど」
「…何」
「いやここで話してたら遅刻するって」

訝しそうな目をやめない倉間くんを何とか煽て、とりあえずエレベーターで1階まで降りていく。その中は、不気味なぐらいに静かで、ちょっとだけ怖かった。だけど、ここまで来たんだから、もう引けない。マンションから出て、わたしは早速話を切り出した。

「あのさ、倉間くん」
「何」
「……数学の教科書、返してほしいんだけど」
「あぁ、悪い」

いや、違うそうじゃない。わたしの発言に倉間くんは思い出したようにバッグから教科書を出すとわたしに渡してくれた。確かにこれも大事なことだけど、でも違う。わたしが聞きたいのは、あの日、どうして倉間くんが「元気出せよ」と言ったのか、だ。

ずっと気になっていた。倉間くんがわたしの様子に何か変化があると思ったこともそうだけど、それをいちいち言いにくるなんて、倉間くんの性格じゃあり得ないよ。だから、知りたかった。場合によってはわたし、今まで以上の元気が溢れるかもしれない。もしかしたらそのまま、後悔のないように流されて、伝えてしまってしまうのかもしれない。

「ねぇわたしってさ、土曜日元気なかったっけ?」
「…は、何で」
「だって倉間くん、わたしに元気出せよ、って言ってくれたじゃない」
「…あぁ。確かに言ったけど」
「どうして、あんなこと言ったの?」

正直、わたしはあのとき元気というわけでもなく、そうでもないわけでもない普通の状態だったはず。何を見越して倉間くんはあれを言ったの?わたし、分かんなくて少しだけ苦しいよ。

「だってお前が浜野とデートするって聞いたからさ」
「…え、誰に?」
「瀬戸に」
「み、水鳥さんに?!う、嘘……」

浜野には事情を話しておくとか言っておきながら、何で倉間くんにそんなこと言っちゃうの!あぁ、どうしよう。こんな答えは予想してなかったな。できれば直感とか曖昧でもいい答えを出してくれればよかったな。落ち込んだように見えたのか、倉間くんは何故か鼻で笑うと、続けて言った。

「浜野とデートってことは、お前ら付き合うんだろ。そう考えたらさ、何か名字はこれから上手くやってけるのかなぁって思って」
「うん、」
「それで元気出せよって言っただけ。分かったか?」
「分かったけどさ、何それ。倉間くんはわたしのお父さんか何か?」
「いや違う」
「じゃあ何」
「友だち」

真剣な瞳に見据えられ、もう言葉が出てこなかった。これはショックからなの?それとも、どうしてわたしは今、体が動かないくらい思考が回らないくらい心で何も思えなくなっているの?悲しいのかもわからず、わたしは唇を噛みしめた。何となく、思ってしまった。この期に及んで、それはないよ倉間くん。いつまで経ってもわたしは、きみの友だちなんかじゃいられない。
分かっちゃったよわたし。わたしね、倉間くんのこと好きなんだ。
強く吹いた風が、バックについているくまのキーホルダーを小さく揺らした。


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