txt | ナノ

いつもより部活で少し遅くなった帰り道、足が自然と河川敷へ向かっていた。学校で練習する以外なら、大抵はここでサッカーをすることが好き。見慣れた風景、見慣れたオレンジ色。だけど、サッカーゴールの前に一人の少女が立っていたのはいつも通りではなかった。どうして自分がその行動を取ったのか分からないけど、気付いたらその少女に近づき、話しかけていた。「お前、こんなところで何してるんだよ」初対面の割には礼儀を知らない言葉遣い、だけど少女はただくすりと笑っただけだった。

「別に。何もしてないわよ」
「ふぅん、ならいいけど。もう暗いから帰った方がよくないか?」
「うん、そうするわ。ありがとう」
「おう、じゃあな」

また会うとは限らないその子に対して「じゃあな」は変だったのかもしれない。だけど彼女も同じように笑った。「またね」と短く呟いて。離れていく背中を目で確認すると、自分も家へと続く道を歩いていく。だけど後ろから、呼び止められる声が聞こえた。さっきの少女だ。

「君、明日は雨降るから!」
「は?」
「傘、忘れないでね!」

にこりと笑った、と遠くからだけど確認出来た。明日雨、か。天気予報だとこの一週間は晴れると言っていたのになぁ。だけど天気予報が外れるなんてよくあることだし、もしかしたらさっき河川敷にいたのは雨が降るか降らないかを調べていたのかもしれない。どうやったらそれが分かるのかなんて知らないが、教えてくれた親切心を素直に受け取っておこう。西の空は太陽が傾き、それはそれはよく晴れていた。





次の日、どういうことなのか空はよく晴れていた。いや、嬉しくない訳じゃない。むしろ嬉しい。だって今日もサッカーの練習が出来るのだから。でも、何でだろうこの複雑な気持ちは。答えは明確だった。昨日出会った少女の言っていたことが外れてたからだ。おかげで朝風丸に「円堂お前、何で傘なんて持ってるんだよ」と笑われたじゃないか。文句を言いたいとは思わない。だけど一言、何か言ってやりたい。今日は河川敷に、昨日の少女はいるのだろうか。授業が終わると部活へ行く。そのときは少女のことなんてすっかり忘れてしまっていたのに、また少し遅れた時間の帰宅となると、昨日と同じ情景を目にしているようで、あれこれは何て言うんだっけ。風丸と一緒に歩いていた河川敷、やはり昨日の少女はサッカーゴールの前に立っていた。

少女は振り返り、こちらを見て気付いたらしい。大きく手を振り、「今日も会ったね!」……何であんなに元気なんだ。昨日、自分の言った予想が外れたことを自覚しているんだろうか。

「お前さ、昨日雨とか言ったのに、振らなかったじゃんか!」
「そうだったっけ?それより、商店街にある駄菓子屋さんに行くと新商品見られるわよ!」
「行かないよ!」
「あ、もう今日は帰るね。またね!」

言いたいことだけ言い残し、少女は去っていった。その軽やかな足取りを見送り、何だかやり入れない気持ちだけ心を覆っていた。何だよ、あれ。結局何も答えずに行きやがった。言いたいこと何も、言えてないのに。横で風丸が不思議そうな顔をして「あれ、知り合いなのか?」なんて聞いているが、赤の他人だと答えるとやっぱり不思議な顔が返ってきた。
変な奴だった。ただ分かったのは、あの子の声はよく透き通る声だったということ。遠くに佇むあの子の言葉に、本当が存在しなかったこと。不思議な出来事だった。



企画・箱庭さま提出


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -