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この世にはやっていいことと悪いことがある。そんなの、誰だって知っているさ。だから、言っていいことと悪いことがある。誰だって、考えれば分かることだろ。そうだ、そんな簡単なことを、分からないバカは何処にいるんだろう。これはいわゆる自問自答ってやつか。そのバカなやつって俺のことじゃん。考えただけで頭が痛い、辛い、絶えない耐えられない苦しみの中で、見える光なんてありはしない。何が悪かった?だから全部俺が悪かったんだって。冗談でも、言ってはいけないことを言った。いや、普通の人間ならそれが冗談だと受け入れて笑って、さらりと流せるくらいのはずなのに、俺はあいつの冗談通じない性格を忘れていた。ただの言い訳だ。言うんじゃなかった、後悔したってもう遅すぎるのは誰よりも分かっている。あの一言によって歪んで溢れたあいつの顔が、ずっと俺を責め立てるように湧き上がる。どうせごめん、って言ったって許してくれないんだろ。言うんじゃなかった。死んじまえ、なんて。


「倉間くんはわたしのこと嫌いなんだね」「もういい、もういいよ」「倉間くんなんて知らない。大っ嫌い」


だけど思い出しただけで腹が立つ。何だよあれ。俺がちょっと切れて言った一言で傷ついたのは分かるけど、あそこまでネガティブになるか普通。分からない分からない分からない。何であいつ好きになったんだっけ。何であいつと一緒にいたんだっけ。何で、あいつに死んじまえなんて言ったんだっけ。俺が何かに苛立って言ったわけであって、でもその理由も覚えてないなんてちょっと無責任だろ俺。だけど思い出せない。何の理由もなく言ったのなら、それは完全に落ち度は俺にある。今すぐにでも謝りにいって、何度でもごめんと言って、許されるなんて思ってなくても、もう一度やり直したいとかほざいて、それで何か変わるのか分かんないけど、何もやらないよりはマシなのだと思う。だけど、向かおうとする足は動かない、動こうとした腕は止まった、止まっていた思考は止まったままだった。埋め尽くすのは別にいいじゃん、という諦めの感情。もしかして俺の中で、あいつという存在は大した意味を持っていなかった?あんなに色んな時間を過ごし、それなりに好きだと思えた感情も、もしかしたら全部俺の勘違いだったのかも。そっか、なら仕方ない。きっと死んじまえ、っていうのは俺の本音だったんだ。難しいこと考えるのはもう辞めよう。はい、終わり。







「くらま、くーらま。お前、大丈夫?」
「え、は?何だよ」
「さっきからボーっとしてるし。まぁ、その、気持ちは分かるけどさ」
「何が言いたいんだよ」
「いやいや、俺傷を抉る趣味はないから」

首をぶんぶんと横に振り、何やら否定の意志を示す浜野。まぁ、別になんでもいいけどさ。次の授業は、数学か。やべぇ俺数学の教科書忘れた。神童にでも借りてくるわ。隣のクラスへと急いだ。次の授業まであと2分程度しか残っていない。神童!声を張り上げ呼び出し、上手く教科書を借りることに成功した。手渡されたとき、何か言いたげな神童の表情を見て、「言いたいことあるなら、言えよ」と本音がこぼれてしまう。言いにくそうに歯切れの悪い言葉だった。彼女のこと、残念だったな。

は、何こいつ。何が言いてぇの。意味わかんね、……いや、意味分かんなくない。惚けてんのは俺の方だ。彼女、という言葉が指す人物のことだって、浜野が気まずそうな顔をしていた訳だって、俺は何もかも分かっていただろう。ただ認めたくなくて、受け容れたくなくて、知らない振りして数日前のこと未だに想っているだけだ。だってそんなの、悲しすぎるだろ。もういないあいつに言った最後の言葉が「死んじまえ」なんて。冗談だったのに、ちょっとカッとなっただけだったのに。まさか本当になるなんて、誰が考えるかバーカ。くそ、何でみんな想い出させんだよ。気の毒だとかそういう風に思うんなら、そっとしとけっての。あーくそ、うぜぇ。泣きたくなってきた。堪えろ堪えろ、ここで涙なんて流しても笑えない。洒落にならねぇって。
大好きだよ、倉間くん。
俺だって好きだった、嘘じゃなかった。全部本当だった。ただ最後のはあれ嘘だ。今更じゃ遅いけど、もう仕方ねぇじゃん。今もう一度大好きだって空に向かって叫んだら、許されるのかなんてそんなこと神さましか知らない。


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