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小さい頃、マイの家に遊びに行けば、必ずと言っていいほどカーディが私に向かって吠えてきた。
まるで私が勝手に家へ入り込んだ悪人だと言わんばかりに。まるで主人であるマイを守るように。
ガーディにとって、どうやら私の印象はあまり良くなかった。吠えるたびに、マイがガーディを宥めて、申し訳なさそうな顔をして私に謝る。


「ごめんね名前」
「全然大丈夫だよ。気にしないで」


嘘じゃなかった。私はマイといられればいいんだ、と笑って言ってみれば、少し頬を赤らめ、「バカじゃないの」と言ってくる。
マイのことが好きなの。友だちとしてじゃなくて、本気で。マイも、分かってくれている、マイから「好きだよ」って言われたことはないけど、私は待ってるつもり。
今はまだ分からない、って言ってくれたから。まだ、ってことは私にもチャンスがあるかもしれないってことだから。


「ねぇマイ。今日父さんからもらったケーキがあるから、一緒に食べない?」
「…いいの?」
「うん、父さんが好きに食べてくれって言ったから。私、マイと食べたいな」


本当は嘘だったりもするんだ。このケーキ、ちゃんと自腹なの。
だってそうでも言わないと、マイはあんまり自分からケーキとか甘いモノを食べようとしない、私が買ったって言ったら「お金を返す」って言う。
私はそんなに気を遣って欲しい訳じゃないの。
マイはそういうところ律儀だけど、私は私のお金でちゃんと買ったケーキを、マイに食べて欲しいの。
そんなこと言ったら絶対怒るから、言わないで置くけど。


「マイの好きなミルフィーユあるよ」
「…うん。紅茶作ってくる。名前はコーヒーの方が好きだったよね?」
「じゃあお願いしまーす!私ここで待ってるね」


そう言えば少しだけ驚いたような顔をして、直ぐに笑った。
マイが部屋を出ていくと、残されたのは私とガーディ。予想通り、ガーディは私に近づいて、唸りだした。
マイはきっと、心配してくれたんだと思う。
だけど逆に、私はこの機会を伺っていたんだよ。


「ねぇガーディ。あなたはきっと大切なご主人様のことが好きな私のことを、許せなくて、気にくわないんでしょう?だからいつも、そんな風な態度を取るんでしょう?」
「ウゥゥ…!」


私の問いかけを肯定するかのように、ガーディはまた唸り出す。
理解して欲しくて、頭を撫でようと手を差し出してみれば、噛みつかれた。ガーディのするどキバをうけて、手からは鮮明な血が流れ出す。
それでも―――分かって欲しかった。
私がマイのこと好きなのは、遊びじゃないの。想いが通じ合えたなら、私は絶対、マイを大切にする。
だからね、ガーディ、


「あの子を私にくれませんか?」


瞬間、ガーディの鋭い目つきは収まり、私の手の傷を舐め始めた。もしかしたら、理解してくれたのかな。もう、マイの家に行っても、吠えないでいてくれる?むしろ、仲良くしてくれる?
急いで傷を洗いに行こうとしたら、紅茶とコーヒーを持ったマイと遭遇してしまい、こっぴどく叱られてしまった。
でも悪い気しないよね。マイのこと、好きなんだし。ね、ガーディ?


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