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「見てよ名前さん、雪降ってる」
「降るならもっと、勢いよく降ってくれればいいのになぁ……」

ため息と一緒に吐いた言葉に、ミツル君は口を尖らせ反抗した。それは流石に、我が侭ですよ、って。確かに、少し身勝手な思考かもしれない。ホウエン地方は日が照る、雨がよく降る、だけど雪が降ることは滅多にない。だからこの地方に今日雪が降ることを、本当はもっと素直に喜んで、感謝しなければならないんだ。だけど、どうしてもわたしの中ではそんな気持ちを抱くことが出来ない。だって、そんなの、こっちからしてみれば迷惑な話なんだから。雪が降れば寒いのはもちろん、交通機関だって止まってしまったり、よく考えてみれば不便な結果にしか終わらない。雪が降って喜んでいられるなんて、ガキだけの話だ。

「何ですか、それ。まるで僕が子供みたいに」
「だってミツル君は子供じゃない」
「確かに、あなたよりは子供かもしれませんけど。僕と名前さんって、あんまり歳変わりませんよ」
「はいはい、そうね」

軽く流してしまえば、ミツル君がそれ以上突っかかってくることはなかった。ほら、寒いから窓閉めて。まだ名残惜しそうに雪を見つめるミツル君を部屋に追い返し、窓を閉め切り、ついでにカーテンも閉めてやった。こうすれば、少しだけ防寒になる。首元が何だか寂しいのは、今日ハイネックの服を着忘れたから。やっぱり冬には、首を温めるのが一番だと思う。身体が弱いはずのミツル君は、未だにパジャマなんて、今日が休日だからって少し気が緩んでいるんじゃない?第一、寒いじゃない。言いたいことは山ほどあったけど、彼を部屋に追いやったのはわたしなのだから、もう何も言わない。そうだ、温かいお茶でも入れよう。お湯を沸かしている間は、椅子に腰掛けじっとしている。やっぱり何処か、寒かった。

室内だというのに、吐いた息が白いなんて信じられない。ストーブでも付けて部屋を暖めればいいのに、何故かそれをしようとは思わなかった。面倒だからか、節約だからか。冬なんて着込めばいいの、まだ寒いなら上着をもう一枚用意して重ね着をしよう。頭の中ではずっと、身体を温める方法を考えている。だからなのか、お湯が沸いた合図の電子音にも気付かず、わたしが意識をはっきりとさせたのは目の前にミツル君の顔が見えたとき。

「名前さん、眠いんですか?」
「…あ、ミツル君。え、わたし寝てた?」
「いや、ボーっとしてました。それより、何か煎れるんですか?お湯沸きましたよ」
「そう、ありがとう。お茶入れようと思って」

きみも飲む?と一言問いかけてみれば、熱いのは苦手だからいいです、なんて何ともミツル君らしい答えが返ってきた。熱いものが飲めないのか、まるで、子供みたいな答えだな。そうだ、ミツル君は子供じゃない。急に込み上げてきた愛らしい感情をミツル君にぶつけ、彼の髪をくしゃと撫でてあげる。「どうしたんですか?」と妙に戸惑いの色を浮かべた表情に笑顔で返し、「何でもないよ」と一言だけ。
わたしも随分、子供なところがあるんだから、ミツル君のこと言えないよね。



title by bianco


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