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どのくらいか分からないくらいの時間が過ぎた。まだ東の高い位置にあった太陽も、もう西に傾き始めている。時計を見てみると、3時だった。驚いた、わたしお昼ご飯食べてないじゃないか。それほど気にも留めなかったけど、お腹が特別空いている訳じゃないから今から何か食べようとも思えない。……それ以前に、浜野がまだ釣りを楽しんでいるのをどうしたらいいのか……。そっとして置いて、きりがついたらまたこの話題を持ち出せばいい。それまで、何してようか。

「名字、眠い?」
「へ、えぇっ、な、何で?」
「すげぇ眠そうな顔してる」
「眠いって言うか、お腹空いた」

お昼を抜いたことに浜野は今気付いたらしく、小さく「そういや昼飯食ってねーじゃん」と聞こえた。そうだよ、今思い出したのか。でも時間も時間だから、今から何か食べるならおやつになる。浜野はそこまでして何か食べたいと思う?このままがいいのなら、わたしは一向に構わない。

浜野は答えず、釣竿を見つめていた。押し黙ってしまえば残るのは何もない静かな時間だってことを知っているはずなのになぁ。もう一度空を仰いで見ると、さっきよりも曇ってきている。雨が降る、ってことは……あるの、かな。

浜野、雨が降りそうだね、とその一言を呟こうとした瞬間、鼻の頭に水滴が落ちてきた。わたしの頭の上には何もないはずなのだから、水滴云々の話ではないはず。もしかしたら予想が当たってしまったのかもしれない。釣り堀の水面を見てみると、小さな波紋が広がっていた。

「浜野、雨降ってる!」
「嘘ー今日の天気予報晴れる予定だったのにー」
「つべこべ言ってないで早く避難する!ねぇ、お昼食べてないけどどうする?」
「俺食いたいもんがある」

ならそれを食べに行こう、とは言わなかった。ただちょっとだけ、わたしも楽しみになってきた。歩いている途中、お腹がぐぅと小さく鳴ったのは内緒にしておこう。





「浜野が食べたかったのって、アイスなの?」
「最近食べてなかったからさ」
「わたしもアイス好きだよ。何にしようかな……」
「奢ってやろうか。今日デートだったし」
「え、本当?!じゃあ、抹茶!」
「はいはい」

元より学生のわたしは大したお金持ってる訳じゃない。だから浜野の言葉は素直に甘えておこう。大好物の抹茶を食べるのは久しぶりだった。受け取って一口舐めて、広がる甘さに何とも言えない笑みがこぼれ出す。雨は少しづつ強まってきたけれど、どうやら通り雨らしいから直ぐ止むみたい。それまで、アイスを美味しくいただいておこう。

「ねぇ浜野」
「んー何ー」
「今日は、ありがとう。わたし、ちょっと頑張ってみるよ」
「へぇ。具体的に?」
「自分のしたいと思うようにしてみる」

迷っていることはよくないって、分かったんだ。だから、もう一度伝えてみようと思う。間違っててもいいから。じゃないと、一生もやもやして悩んでしまいそう。


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