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「え、ちょっと浜野、どうしたの?」
「んーいや、別に。名字こそどうよ、自分の気持ちに気付けた訳?」
「は、ぇ、ちょっと待って、ホントに待って。意味が分からない」

突然浜野が投げかけてきた質問は、すんなりと頭の中に入ってこなかった。どう頭を奮わせても、分からない。その質問に意味があるのかと悩むのもあるけど、浜野が何を思ってその質問をしたのかの方が分からない。……分からない、の一言で全て片付けられないのは知っていたけど。きっと、こういうときにこそ、自分と向き合うべきなんだ。

「…どうなんだろ、わたし、気軽に話せるっていう意味で楽しいのは浜野かもしれない」
「最近倉間のこと男として意識しちゃってたりするんだー」
「……、あのさ、な、何でそのこと、知ってるの」
「名字の反応見てたら分かるしー」

いつから気付いてたの、と聞いてみると最初からとあっさり返事をいただいた。最初からってもしかして、最初から?区切りが分からない曖昧な記憶の中を探り、そういえばわたしが想いに気付けたのも浜野の一言からだったかな、なんて思い返す。結局は全部違っていたのかもしれない訳だけど。だからこうして、浜野とデートする行動にまで達したわけだけど。
……変なところで、勘いいんだな浜野って。

「でもさ、わたし倉間くんのこと好きじゃないのかもしれないんだ」
「えぇーまたまた〜。名字の優柔不断もそこまで来るとただのバカだね」
「浜野には言われたくない」
「瀬戸とかめっちゃ頑張ってたじゃん」
「………」

確かに、そうかもしれない。水鳥さんは、何だかんだ言ってすごく協力してくれて、背中を押してくれて、本当に感謝してるし、友だちになってよかったなぁと思っている。だけど、やっぱりなんか、違う気がするんだ。友だちから恋に発展するのは、きっとわたしと倉間くんじゃ無理なんだよ。

「名字、俺さ」
「うん」
「名字と倉間ってすごいお似合いだと思ってる」

冗談だろう、なんて。性格が悪いのかな、そう思ってしまえる。だっていきなり何言い出してるか分からないし、お似合いとか有り得ないし、そんなに浜野もわたしが倉間くんのこと好きだって自覚させたいのかと少しだけ腹が立った。わたしの気持ちなんて、どうでもいいじゃないか。わたしが倉間くんに恋してないと分かれば、水鳥さんだって面倒臭い真似しなくてもいいし、わたしが浜野をデートに誘うこともなくなる。世界が、平和になれるのに、どうしてこうもわたしの周りの人は分からず屋ばかりなの。もう、一人ひとりに訂正していく気力もない。勝手に勘違いしないで、と強気な態度は取れないけれど、わたしは何度だって、思いこみにに惑わされてはみんなに迷惑をかけてしまう。だったら、最初からこんなことなかったことにしてしまおう。

名字はさ、結局どうしたい訳?、浜野はまた問いかけた。結局ってそれ、最終的にってことだよね。わたしが最終的にどうしたいか、なんて、そんなの――言葉は続かなかった。頭で言うことはきっと整理されているはずで、すらすらと答えられるつもりだったのに、言葉が出なかった。ありったけの細胞を回転させ、返事を作ろうとするけれど、無理だった。少しだけ、泣けてきた。

名字、もっと自分のこと考えたらいいよ。浜野はその一言を残すと、釣りを始めた。勝手に質問振っておいて、終わったらさっさと釣りですか。だけど、仕方ない。自分で自分の答えが見つけられていないのは事実。
押し黙ったまま、わたしは空を仰いだ。少し曇っていた。……まるで今のわたしみたい。


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