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待ち合わせは雷門中校門前、分かりやすくていいだろ?と浜野はわたしに笑って言った。確かに行き先がどこか知らないわたしに変な場所を指定するより、馴染みの多い場所で待っていたほうが随分と楽だろう。それを日曜日お昼の11時にと決め、金曜日、変わらない表情で「またね」と告げたのだった。
だけど、きっと浜野は分かっているはず。わたしがデートというものが初めてだということに。だから行く場所も待ち合わせ場所も時間も、一通り決めてくれた。……いわゆるデート慣れ、をしているのだろうか。もしかして、浜野って女子とデートしてことある?要らない疑問ばかりが脳裏を埋め尽くし、今向き合わなければいけない問題から思考を背けたくなってしまう。だって着ていく服が分からないなんて、格好悪すぎて言えない。恥ずかしくて、言えない。

「水鳥さんとかに相談したら、絶対何か言われるだろうなぁ……」

土曜日の夜、こんな時間にバカみたいな悩みも優しく聞いてくれる人が身近にいるのだろうか。本当は悩みがあるなら真っ先に親に相談するべきなのだろうけど、如何せん、わたしのお母さんは変なところで調子に乗るから言えない。どうしてわたしの周りには変な人しかいないんだろう。複雑だ。

「名字!」
「う、うわっ、だ、誰?!」

突然後ろから大きな声で呼ばれ、体が驚くほどに跳ねていた。振り返るとそこにはこの上なく不機嫌な顔をしていらっしゃる倉間くんが。いやいや、待て待て。あまりに悩みすぎて、わたしは幻覚でも見えるようになってしまったのか?ここ、わたしの部屋なのに。どうして倉間くんがここにいるの?

「何度も呼んでるだろ、大声出させんなよ」
「ご、ごめん。え、えと倉間くん、どうしたの?」
「数学の教科書貸してほしいんだけど」
「は?」

あまりにも唐突な言葉に、呆けた声が出てしまう。数学の、教科書、だと?いつしかお母さんの言っていた冗談が思い起こされたけど、すぐに頭の中から消去する。倉間くんがわたしに何かを頼みに来るって、これすごく珍しいことじゃないか。学校に教科書を忘れたという倉間くんも、案外抜けているところがあるのだろう。わたしはスクールバックから教科書を取り、差し出した。

「はい、どうぞ」
「サンキュ。……あ、そういえばさ、」
「うん?」
「……いや何でもない。元気出せよ」
「は?」

意味不明な一言を残し、倉間くんはわたしの部屋から出て行った。そういえば、どうしてわたしの部屋にいたのか、聞くの忘れたなぁ。リビングへ行き、お母さんに事情を問いただすも、曖昧な答えしか返ってこなかった。「知らないわよー」なんて。お母さんが家に入れたんじゃなければ、倉間くんは不法侵入したと言うのか。……彼は優しくないけど、そんな人じゃないのは知っている。だけど、なんで倉間くんは「元気出せよ」なんて言っていたんだろう。
謎が増えるだけだった。ううん、今は明日のことだけを考えるべきだよね。


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