txt | ナノ

英語の補習なんて、プリント2枚やって解説するだけじゃん。本当は補習なんて受けたくないし、英語なんて大嫌いだから糞食らえなんて汚い言葉を使ってしまいそうだけど、ひとつの教室いっぱいいっぱいに集まった生徒の数を見れば、教師側としては動かないわけにはいかないだろう。……わたしと同じように、英語を苦手としている生徒は何人もいた。もちろん、浜野もその一人だけど。
座席がクラス順に並んでいるため、隣のクラスである浜野とは比較的近い席。わたしが独り言でもため息でも、何かしら呟けば振り返り、「今なんか言った?」と話しかけてくるのが毎度のこと。結局のところ、それもなかなか楽しいことだということをわたしは知っている。

「なぁ名字、問4の答え何ー?」
「は?ウ、じゃないの?」
「へぇ。ありがとー」

こんな風に度々こそりと答えを聞いてきては、教えている。その逆も然り。補習の内に答えを教え合いながら問題を解いていくなんて、教師にバレたら怒られるどころじゃないだろう。だけどプリントを解いている間、大抵教師は席を外している。わたしたち以外にも小さな声でお喋りしている声も聞こえてくる。

ちゃんと誘えよ、デートに。
不意に思い出してしまった水鳥さんの言葉を、頭の中からきれいに消え去ろうと努力してみる。だけど考えれば考えるほど集中力が切れ、頭の中がいっぱいになってしまった。……本当に、誘ったら自分の想いに気付けるのだろうか。もしそうなら、その、少しだけ興味というか、好奇心というか、湧き出してきてしまった。

「ねぇ浜野」
「んー何?」
「今度の日曜日デートしよ、って言ったら、乗る?」
「えーやだよ」
「……ですよね」

見事に即答だった。少しだけ、悔しかった。何だよ、即答なんて。もう少し考えてから答えてくれたっていいのに。

「ちゅーかどうした、名字がデートなんてさー」
「わたしだって女の子なんです」
「ふーん。まぁさ、日曜日ならいいよ」
「え」

今即答でいやだよ、なんて言ったくせに。即答だったから少しだけわたしの心も傷ついたっていうのに、今更いいよ、なんて言うつもりなのかこいつは。聞き返すほど、わたしの脳は状況に付いていけてなかった。ただ、浜野が繰り出す次の言葉を待つだけ。

「俺も最近行きたい場所があるのに、暇なくってさ」
「うん」
「そこ付き合ってよ。あんまデートって感じはしないけど」
「…う、うん?」

もしかしてこれは、本気でデートに行くという話になっているのだろうか。わたし自身は軽い気持ちだったのに。浜野はちゃんと、気付いてるの?わたし、男の子とのデートは初めてだし、多分何も出来ないし、楽しませることも出来ないかもしれないのに。それでもわたしの我が侭に付き合ってくれるの?

「ち、ちなみにさ、浜野。何でOKしてくれたの?」
「んー名字が友だちだから」

友だちだったら、デートは受け容れてくれるものなのだろうか。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -