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わたし、本当は倉間くんのこと好きじゃないのかも。

不意に浮かんだものはわたしの頭の中をぐるぐると駆け回っては謎を増やすばかりだった。そう思えば、確かにそうなのかもしれない。浜野に倉間くんのこと友だちって呼べるのか、って聞かれて一応応えられたじゃない。ちょっと迷っただけ。茜ちゃんにそれが恋だよ、と言われ鵜呑みにしただけ。……なのかもしれない。わたしはいつ、何処で、自分から倉間くんのこと好きだと自覚したのだろうか。深く考えても、解決しないのは仕方ない話なのだろうか。

「名前、お前って面白いよね」
「え?」
「うだうだ言ってたと思えばさ、いきなり倉間のこと好きじゃないかもなんて、そんなの有り得ないって!」
「そ、そういうもんですかね」
「じゃあさ、何でそう思うわけ?」

わたし、本当は倉間くんのこと好きじゃないのかも。
そう呟いた一言に、水鳥さんはどうも納得してくれないみたい。だけど、そういう思考を浮かばせたのは水鳥さんの一言なんだよ。……と言える訳でもなくわたしは、この状況でどう言い訳するかということばかり考えていた。

何でそう思うのか、なんて。
倉間くんと話すたびに、目が合うたびに、声を聞くたびに、動機が激しくなったり身体が熱くなったり緊張してしまうのはきっと、わたしが倉間くんのこと好きなんて思っていたからだ。だけど本当は、そんなことない。本当は傷ついてないのかもしれないし、別に倉間くんに友だちと思われていることにショックなんて受けてないのかもしれない。もしかしたらホントのところ、わたしも倉間くんのことを友だちとしか思ってないのかもしれない。だったらそれは、恋しているとは言わない。

きっとわたしは、恋してるよって言葉に頭を支配されていただけ。恋は甘くて苦しいものなんて言うけど、甘さなんて感じたことないし、苦しくても本当に苦しいと思えない。いつでも中途半端な感情を抱いていただけ。

「結論から言うと、やっぱりわたしは倉間くんに恋してませんよ」
「はぁ、呆れた」

ため息をひとつ吐き、髪を掻き上げる水鳥さんの姿は、正直格好良かったし、女のわたしでも少し憧れるようなものだった。……水鳥さんとこうやって話すようになったのも、わたしが倉間くんに恋してるなんて嘘が流れたからだったな。いいこと余りなかったけど、水鳥さんとこうやってお喋りできる仲になれたことは感謝しよう。
だけどわたしの説明は、水鳥さんの機嫌をより一層悪くさせてしまった。

「名前、お前今度浜野とデートしてみろよ」
「は?」

この人はいきなり何を言い出すんだ。思考が、停止した。


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