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こんなにも大人数で町を移動したのは初めてだった。雷々軒というラーメン屋さん、へ行く道中に何気なく同行しているわたしを、きっと風丸さんと秋ちゃんしか分かっていない。元々目立つようなタイプじゃないし、目立ちたいとも思わない。この性格を分かってくれている友だちも、憧れの豪炎寺さんと一緒にいるのかと思いきや、その姿はいつの間にか何処かへ消えてしまっている。嘘吐き、だ。一緒に来てくれるって言ってたのに。今から発表会に行く小学生の気分だ。

しばらく歩いていると、目的地に着いたらしい。ぞろぞろみんなが入っていく中、わたしは入っていっていいのだろうか。この期に及んで、戸惑いの気持ちが溢れんばかりに出てきてしまう。立ち止まるわたしに気付き、風丸さんが振り向いた。不思議そうな顔をしてどうした?と問いかける。

「入らないのか?」
「いや、あの、わたし部外者なのに、」
「え」
「入っていいのかなぁって…迷って…」
「何だ、そんなことか。いいだろ、別に。それに、俺に用事あるんだろう?」

少し笑って、中へと誘ってくれる。あぁ、少しだけ、ほんの少しだけ安心できた気がする。この場にいる理由とかそういうの、どうしても求めてしまうわたしには十分すぎるくらいの言葉だ。直接言えないありがとう、を心の中で呟き、どうかそれが風丸くんに伝わりますように――なんて、恥ずかしくて言えないよ。





「それで、俺に何の用?」
「この間の本、返しに来ました」
「え、返却してくれたんじゃなかったのか」
「…、えっとその、じ、自分で返してくださいよ!」

本を突き出し、つっかえながらも最後まで言えた自分を褒めてやろう。だけど目の前の風丸さんは相変わらず不服そうだった。そりゃ、そうかもしれない。返しておいて、と言って渡した本が自分の手元に返ってきたのだから。だけどそんなこと言ったらわたしだっていきなり頼まれてはい分かりましたと言える訳じゃない。パシリみたいな行為なんてごめんだ。自分で返して欲しい。もしやり方が分からないとまだ言うのなら、教えてあげるんだから。

「そういえばきみ、なんていうんだっけ?」
「名字名前です」
「じゃあ今度、この本の返し方教えてよ。自分で返すから」
「そういうことなら、任せてください」

やっと自分の本領を発揮できる言葉が出てきたものだ。でもその本、もう貸出期限が過ぎてしまっているから早めに行動した方がいいことを指摘すると、やはり帰ってきたのは不服そうな顔。「それ、面倒だな」なんて、そんなのあなたがいつまで経っても返さなかったのがいけないんでしょう!この人と話してると何だか調子が狂いそう。

「っていうか名字、お前って帰らなくていいのか?俺らに付き合ってると7時は過ぎるぞ」
「えっ…、あの、今何時ですか?」
「6時」
「か、帰らなきゃっ!あ、あの、ご馳走様でした!」

何も食べていないが、店主であろう男性に挨拶をして外へ飛び出す。いけない、6時なんてお母さんになんて言われるか!……急いで帰って、果たして許してもらえるだろうか。募っていく不安の中、背後から声がかかった。振り返ると、そこには息を切らしてわたしを追ってきたと見える風丸さんの姿。


「風丸さん、どうしたんですか?」
「もう暗いから……送ってこうと思って……」
「え、いや、悪いです」
「俺がそうしたいんだよ。っていうかさ、そのさん付け、やめようぜ」


ほら、行こう。そう行って差し出された手を、どうしてわたしは握っていたのだろう。そういえば男の子と手を繋ぐなんて、正直初めてだ。そんなことを考えたら体中が熱くなりそうで、途中でそれを止めてしまった。鼓動が早くなってるなんて、そんなの気のせいだよ。


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