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他愛のない話をするのは好きですか?わたしは好きだよ。きみと、わたしで意味のないような会話で時間を埋めるなんて、素敵じゃないですか。そう、本当に意味の何もないような会話ばかりだった。事の始まりは全て、わたしの独り言から、自問自答から始まったものだというのに、いつのまにかわたしの意味のない問いに、きみが応えるようになっていた。横から入ってきたくせに、言いたいこと言って帰って行って。結局今まで、答えとした答えをもらったことは一度もない。それもそのはず、わたし自身がまず、答えを必要としていない。問いかけて、それで満足するの。それでいいじゃないか、と諦めが生まれるの。なのに今日もきみは誰もいない寂しい教室へとやってきて、空しいわたしの質問を聞いている。





結局人生なんて、後悔ばかりだよね。
中学に入って間もないのに、この呟きは少し寂しすぎるのかな。今日も教室にやってきた狩屋はわたしの小さな一言を聞いている。今日は何も答えないみたい。ときには心臓にナイフを突き立てるような罵倒の言葉をもらうことだってある。大人しくしていればいいイメージの強い狩屋が、わたしの中でいつしか崩れ始めていた。……何も答えてくれないなら、それでいい。その代わり、わたしは違った質問を投げかけた。

「狩屋ってさ、サッカー部だよね」
「うん、そうだけど」
「いつもいつも教室に来て、よっぽど暇なの?」
「別にそうじゃないけど」

じゃあどうして毎度わたしが教室に残る日に限って、この場所にやってくるの?不定期なわたしの日程と、サッカー部が休みの日が毎度重なるなんて偶然は有り得ないだろう。なら、どうして?わたしをわざわざ嘲笑うため?貶すため?もしそうだというなら、こいつはすっごく性格悪い。あぁ、イライラする。答えがないなら、もう来ないでほしいし、わたしと会話をしないで。

「まぁいいや。今日は帰るよ」
「どうぞご勝手に」
「名字も早く帰ったら?」
「余計なお世話」

可愛くないと言われようと何だろうと、きっと狩屋はわたしにとって敵、だ。そんな奴からの心配なんて要らないし、そんな奴の指図なんて受けたくない。……最初からわたしが教室に残ることをやめてしまえば、もう狩屋と話すこともなくなるだろうか。顔を合わせることもなくなるだろうか。同じクラスだとしても、放課後以外の時間でわたしたちが会話を交わすことはまずない。
結局わたしが行動を変えれば、すべてが変わるんじゃないか。





それから数日後、変わりたいと願って教室に残ることをやめた。だけど足が、身体が教室に残りたがっている。家に帰りたくない。別に、家で何か起こったわけじゃないけど。だけど一人になれる教室は、わたしにとって今一番居心地がよかった。誰もいない教室を見わたし、ふと、窓辺を眺める。きっと今校庭ではサッカー部が必至に練習をしているんだろう。重くなってきた瞼をしっかりと開き、今度は教室のドアの方を見てみた。……この場にいないはずの、狩屋が立っていた。どうして。

「狩屋、何でここにいるの。今、部活じゃ……」
「休憩中だから来てみただけ。それより名字はどうしたの。今日も自問自答?」
「うるさいな」
「今日は、何に悩んでるのさ」
「……どうせ終わりがくるから、頑張らなくてもいいなんじゃないかなって」

自分でもびっくりするほど、それは素直に口から出てきた。狩屋なんてわたしの敵なのに、その敵に何弱音を吐いてるの。だけど、今までだって同じようなこと繰り返してきたんだから、今さら羞恥の感情は浮かばない。それより、狩屋はなんて答えるのかが、気になって仕方ない。

「どうせ終わりねぇ。名字って死にたいって思うときあるでしょ」
「そりゃ、ね」
「そんときついでに死ねばいいんじゃない?」

笑って、さらりと狩屋は答えた。他人が聞けばどうだろう、それはあまりにも軽すぎて残酷すぎたか?でも、わたしはそんなこと全然感じなかった。むしろそれは、狩屋からもらった救いの言葉。狩屋に死ねばいい、なんて思われるくらいなら嫌でも生きてやる。明確な意思を伝えたわけじゃないけれど、狩屋は少し笑っていた。ホント気に食わない。やっぱり狩屋ってわたしの敵だ。


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